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オーダースーツの話 その1

ファッション
Jan 11,2017

男子で多少のシャレ者なら、オーダースーツを1着くらいは持っていると思います。

既成スーツも、もちろんいいのですが、オーダーには何とも言えないロマンがあって、失敗を繰り返しても今度こそは、とチャレンジさせる魔力があります。

1960年代のスーツは今見てもカッコいい! クレージーキャッツのスーツも間違いなくオーダーでしょう
60年代まで日本男子のスーツは、ほとんどがオーダーでした。
その街ごとに、テーラーと呼ばれるオーダー紳士服の専門店があって、オフィスにも採寸のためにテーラーが出入りし、働くお父さんたちのスーツはそこで作られていました。
70年代の高度成長期に入ると、工場で良質&低価格なスーツの大量生産が可能になり、豊富なサイズ展開も実現したことから、オーダー需要は減っていきます。
それ以後もスーツのオーダーを続けたのは、企業の役員クラスや一部の人だけでしょう。

しかし、時代は一億総中流から個性の時代に移り、平均化から差別化へ。
ここ5、6年でオーダースーツの需要は高まり、色々な新しいテーラーが出現しています。
そこにあるのは、一部の人たち向けのエグゼクティブなイメージではありません。
価格も以前に比べると随分安くなりました。
そしてラグジュアリー系のインポートブランドも、オーダースーツを展開するようになっています。
15年以上前にオーダーしたアットリーニのスーツ。高かったなぁ。。。
10年くらい前まで、イカしたオーダースーツと言えば、イタリアやイギリスから職人が来日して採寸するのがほとんどだったと思います。
かなり高額でした。
自分も以前ナポリのサルト、アットリーニのスーツをオーダーしたこともありました。
もう少しタイトにって通訳を通して何度も伝えたのに、やっぱりゆるゆるで上がってきて、、。
かなりの散財でしたね。。泣
しかし、今では海外で修行した若い日本人たちが開いたアトリエ系の小さいテーラーも多くあります。
テーラー&カッター、バタク、ブルーシアーズ、VAMP、ディトーズ、滝沢滋、マリオペコラ、コルウ、ケイド、天神山、石田洋服店、サルトリアイプシロン、リッドテイラー、サルト、チッチョなどなど、他にもたくさんあります。
ファクトリーブランドも、ファイブワン、リングジャケット、ロンナー、大賀、麻布テーラー、sebiro&co(オンワード樫山)などなど、昔からやっている企業もあります。
しかし全体から見れば、世界的なカジュアル化の傾向でスーツの需要は減る一方。
今ではほとんどの人がジャケット&パンツで働くようになってきました。
銀行員ですらスーツは着てませんからね。
スーツは制服としての機能を終え、差別化のために選ばれるアイテムとなっていると言えるでしょう。
受動的から能動的に着る服になったと個人的に思います。
僕個人もカジュアル化が普及し始めた7、8年前から、あえてスーツを着るようになりました。
それまでプレゼンの時以外は、スーツはほとんど着ませんでしたけど、カジュアル化が進むと、能動的に逆に着たくなったというわけです。

多くの人がスーツをオーダーする時に意識するのは、まず国でしょう。
というのもスーツは国によって、形やディテールが大きく異なるからです。
大別するとイギリスとイタリア、その次にアメリカ、ごく少数派としてフランス。
Harris Tweedは1846年、LOVAT Tweed(ラバット)は1900年創業、ともにスコットランドの代表的な服地。
FOXフランネルで知られるFOX BROTHERS&COは1772年、William Halstead(ウィリアムハルステッド)は1875年創業の英国ミル(毛織物工場)
アイリッシュリネンといえば、Spence Bryson(スペンスブライソン)、1891年にアイルランドで設立
スーツの発祥地は紳士の国、英国です。
それがイタリアやアメリカに渡り、その地でローカライズされて変容したという歴史があります。
(東京に英國屋、ナポリにもロンドンハウスなど、イギリスに敬意を払った名前の店があるのはそのため)
そうした意味で、英国スーツがスーツ本来のDNAを持っていると言えます。
イギリスの生地は硬くて重いですが、やっぱり好きです。

イギリスのスーツの特徴は、肩パットや芯地がしっかり入って盛り上がったビルトアップショルダー、
腰のポケットが斜めになっているスラントポケット、長めの着丈、
本来のポケット以外に小銭を入れるために作られた小さいポケット=チェンジポケット、
他にもサイドベンツ、絞り込まれたウェストライン、打ち込みの強い(しっかり織られた重量感のある)生地などの特徴があります。
一方イタリアのスーツにはイギリスのような堅苦しさはなく、どこまでも軽く柔らかく、芯地もほとんど入っていないのが特徴です。
イタリアの北と南で作りは違いますが、南に下がれば下がるほど軽さと手仕事を追求する傾向にあります。
ナポリではシャツの袖付と同じ技法で縫われる雨降らし袖、舟底のカタチをした胸ポケット=バルカポケットなどのディテールも特徴的です。
アメリカはボックス型のジャケットで、60年代に登場したブルックスブラザースのNo1サックスーツが、、、、
もうこの辺にしておきましょう 笑
いやはや、、書いてるだけでメンドクサイですね。
イギリスの生地を売るマーチャント(生地卸商社)として1842年にフランスで設立されたDORMEUIL(ドーメル)。大好きです。
そんなわけでスーツも色々とあって深いのです。
男子は着るスーツを国で大別しますが、そこに職業はもちろん、性格、考え方、大げさに言うと生き方が反映されています。
大人のスーツは社会とのインターフェイス、その人自身が社会とどう関わるのかという姿勢、意思が表現されるものだからです。
でも、こういう話は女子にはあんまり理解されないと思います。
女子は背景にあるウンチクや理由付けより、見た目のカッコ良さをビジュアルで判別するので、そういう意味ではイタリア系の方が女子に受けはよいと思います。
艶っぽいですからね。
1936年にイタリアで創業したVitale Barberis CANONICO(カノニコ)、同じくボローニャでマーチャントとして創業したDRAPERS(ドラッパーズ)、カチョッポリと並んで有名。
だからイタリア系のスーツを着ている男子の横にいるのは、だいたい身体のラインを強調した服を着ている髪の長い女子やバブリーな格好をした女子(どんな格好?笑)が多いのです。
女子もスタイルに自信があったり、自分の見た目がイケてると自覚している「イケててナンボ」な感性が男子のそれと響き合うのです。
あと「お金の象徴=イケてる」という考え方、周りからイケてるように見られたいがためにそれを選んだりする人が多いように思います。
そういう意味では、経済活動に直結している上昇志向が強い男子、ソーシャル志向が強い男子ほど、イタリア系のスーツを選ぶ傾向が強いように思います。
車ならポルシェかマセラティ買うみたいな感覚でしょうか。
まったくの個人的な偏見ですけどね 笑

一方でブリティッシュ好きな男子って、オールドジャズしか聞かないみたいな懐古趣味のオタクのイメージがありますね。
そっちの方がメンドクサイかな、、、汗
追求すればするほどコスプレになっちゃいますからね。
いくつになってもモテたいナンパなイタリア好きおやじVSオタクなコスプレのイギリス好きオヤジという2大勢力が日本のスーツファッションを動かしているのです 笑

僕自身は、、、何でもいいのじゃないかと思ってます。
イギリスもイタリアもアメリカも、もちろん日本も、そしてクラシックもモードも自由に選べるのが日本に住んでいる利点ですからね。
1つのジャンルに縛られず、自由な方がいいのじゃないかと思います。
国やカタチなどの文脈も重要ですが、それを超えたところにある自分らしさ、自分のスタイルというのが一番重要のように思ってます。
それは国やブランドなどの様式ではなくて、フィッティングのサイズ感であったり、着こなしであったり、コーディネートとしての組み合わせであったり。
何かのルールブックに沿った〇〇風ではなくて、そこに自分らしさがあればそれが一番素敵なのではないかと思うのです。

今回内容がマニアックで全然わからないって人もいるかと思いますが、男子ってホントメンドクサイというのがわかっていただければと、ハイ。笑

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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