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デザインは消費のインサイトに成り得るか?

仕事
Oct 27,2022

寒くなってきましたね。

そろそろセーターの季節です。

そんな中で今日は、自分が感じるデザインの考え方について紹介したいと思います。

量販店で1冊のカタログが目に留まってから考えるように。
毎週月曜日に会社でスタッフ全員が集まるミーティングがありますが、月に1回のサイクルで、自分が話す時間が回ってきます。
その中で最近、インサイトについて語る機会が増えました。
「インサイト」ってよく耳にする単語ですが、この意味を知っている人はそんなに多くはないのではないでしょうか。
しかし、モノを作っている人、クリエーターなら避けて通るわけにはいかない重要なワードのように思います。
Insight、この英単語を直訳すると、洞察・物事を見抜く力とあります。
マーケティングでは、人を動かす隠れた心理、目に見えない"決め手"を洞察して言語化したもの、と定義されています。
インサイトを探ることは今とても重要な視点。
「そうそう、こんな商品が欲しかった!」
まさにこんな状況の時にこそ、そこにインサイトが潜んでいます。
ユーザーに新たな気づきをもたらし、需要を生み出すきっかけになる、
それがインサイトです。
なぜカタログを見て欲しくなったのだろう?と考えるように。
なぜその商品を買ったのか?
あなたはなぜその家電を、スマホを、セーターを買ったのか、明確に説明できるでしょうか?
これだけモノがあふれ、どの商品を買っても失敗しない世の中で、本当に欲しいものを見つけて買うケースばかりではないと思います。
自分自身に問うようになりました。
何が人の消費を動かすのかを。
インサイトは潜在ニーズと類似しているため、多くの人が勘違いしている可能性がありますが、インサイトは潜在ニーズとは異なるものです。

サイトを探すと、ニーズとインサイトの違いについて書かれた事例がありました。
たとえば、痩せたいという顕在したニーズがあるとします。
しかし、実はその水面下には、健康になりたい、お洒落な服が着たい、
自分に自信を持ちたい、などの潜在的なニーズある場合が多い。
インサイトは、それよりもさらに深いところにある
「まだ欲求さえない状態」を指します。

消費者自身も気づいていない無意識の心理、
商品やサービスを利用してみて初めてわかる感情、
だからこそ、そうそう、こんな商品が欲しかった!
となるわけなのです。
インサイトがないと市場が創り出せない時代になりました。
ではなぜ今、インサイトが重要なのでしょう?
ほとんどの人の日常は満たされ、周りに同じような商品はいくらでもあり、何が欲しいのかも不明瞭になっている時代。
いかに多くのユーザーのニーズを探し出せるかを競っていた従来のマーケティング主導の考え方には、限界が来ています。
現在では、ユーザー が必要としている無意識の何か、インサイトを見つけなければ需要を作り出せない時代になりました。
消費者の課題から掘り起こさなければ、モノは売れない状況になったのです。
マズローの欲求5段階説
アメリカの心理学者マズローが唱えた欲求5段階の最上段
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第1段階 生理的欲求:生きていくための本能的な欲求
第2段階 安全欲求:安心して生活する上で最低限必要な欲求
第3段階 社会的欲求:他者に必要とされたいという欲求
第4段階 承認欲求:他者から注目・認められたいという欲求
第5段階 自己実現欲求:自分らしく生きたいという欲求
------
「自己実現欲求=自分らしく生きたいという欲求」
この商品を持つことで私は自分らしくなれるだろうか?
今の日本において、その商品を買うかどうかを決める判断は、この「自己実現欲求」にあるように思います。

自分では気が付いてないけれど、自分の求める理想のライフスタイルが実現できそうと判断した商品、
自分が知る「私らしさ」に合致すると判断した時に欲しくなっているのではないでしょうか。
今までのように、人が持っているから、誰かに認められたいから、というような動機は薄れ、誰もが持つ大ヒットの商品を欲しがる時代は終わったと思います。

「まだ欲求さえない状態」
それを見つけるのはとても難しいように感じることでしょう。
正直簡単ではありません。
しかし僕が思うに、それを見つけるヒントは、講義や学術的な勉強からではなく、日常の観察にこそ答えがあるように思います。

インサイトは様々な手法を使って探ることが可能と言われています。
インタビュー、市場調査などで関連情報はすべて調査する。
そしてユーザーの深いところにある心理に着目し、どんなことに困っているのか、何を必要としているのか、ユーザーに成りきることでその感情を的確につかむ。
価値観やライフスタイル、心理的特性に踏み込むことが重要です。
僕も仕事でやっていますが、ペルソナやサイコグラフィックなどを使って明らかにしていく。
ただここまでは、お勉強の手法であり、肝心なのはここから先でしょう。
それら分析したデータから消費者の深層にある心理や感情のポイントを探ること。
そのためにはなぜ?なぜ?なぜ?を繰り返し追求することです。
仮説推論で導き出せる部分が大きい。
これはクリエイティブに従事している人すべてが、保有すべき技術的スキルだと思います。
インサイトは展開することがゴール
インサイトは導き出した時点で終わりではありません。
むしろそこからがスタートです。
インサイトは見つけることがゴールではなく、活用するための発見だからです。
モノやサービス開発にはもちろんですが、それだけでなくイメージや言葉の定義、販促活動にも活用する起点となるものです。
そしてそれら、すべては1つのストーリーでまとまっていることが重要です。
イノベーションアウトプットがなければモノは売れない。
水野学は著書「アウトプットのスイッチ」の中で、ヒットする商品には、2つの重要な要素が不可欠だと説いています。
1つめは、品質、価格、パッケージ、広告など意識的なアウトプット
2つめは、発信する人、会社が内包している無意識のアウトプット
これはいわば、モノ、サービスを作る企業側の想い=「らしさ」ですね。
これら2つが揃って初めて売れる「イノベーションアウトプット」が生まれると。
確かに以前と違って、1つ目が備わっていることはもはや当たり前となりました。
素敵な見た目のデザインは、最低限の必須条件となったのです。
商業施設に並んでいる商品を見ても、明らかにダサいというモノはほとんど見かけませんよね。
中身の心意気やハートはなくても、外観は一応"それなり"に整っています。
では、どうして売れないのか?
企業側、サービス提供側の想いがそこになければ、要するに無意識のアウトプットがなければ、外側の表皮とのギャップがユーザーに違和感を与え、選ばれない結果となる。
今の世の中のトレンドであるとか、デザイナーが考えるこうあるべきだという思い込みが、作り手のらしさや想いと結びつかない。
そのために結果まで導き出せないというケースも多々あるように思います。
消費者はその微差(実は大きな差)、表面的な見た目の美しさだけでは動かされない、もっと鋭い感性を持っているのです。

デザインの役割は、商品やサービスの本当の価値を見つけ、受け手=使う人たちがまだ気が付いていないインサイトを発見し、この2つを結びつけること。
言葉とイメージでそれを世の中に提示すること。
まさにここにあると思います。
デザインの役割は2つをつなぐこと。
長くなってしまったので、話そうと思っていた実例の紹介まで行きつけませんでした 笑
何が言いたいかというと、作り手が無自覚でいるわけにはいかないのです。
インサイトなしで、デザインをすることへのリスクを自覚しなければなりません。
商品の価値やユーザーのインサイトを発見し、2つをつなぐためにはどうすればよいか?
もうお分かりだと思いますが、作り手が美しいデザインを追求するだけではなく(カタチのデザイン)、消費者の想いや提供する企業の深い部分まで踏み込んでデザインする(思考のデザイン)しかありません。

パーパス、何のためにこの企業は存在しているのか?
それについて考察し、使う人は日常でどのように感じているのかを見る。
その2つを突き詰めていけば、解決策に少しづつ近づけるように思います。
決して簡単なことでありませんが。

そのような業務は自分の仕事ではなく、営業やマーケターのすることだというデザイナーがいたとしたら、その人は今後生き残っていけないでしょう。
そういう時代になったということです。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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