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本当にシビれる、細谷 巖のデザイン遺産

クリエーター
Oct 11,2022

ここへ来て急に寒くなってきましたね。

雨のあとは、グッと気温が下がり(急激に下がりすぎ)、秋本番といったところ。

本当はシャツ1枚の気持ちのいい陽気をしばらく楽しみたかったのに、半袖から中間を飛ばして、いきなりカーディガンまで行ってしまった感があります。

秋到来、味覚でも読書でもなく、芸術の秋ですよ!

前回も「スマホを捨て街に出よう」と題して、見ておきたい展示2つを紹介しました

今回もサブスクでは見られない、今見るべきシビれる展覧会を紹介しましょう。

https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2022/09/post-132.html

日本の大御所グラフィックデザイナーの仕事に触れられる機会。
現代美術最後の巨匠と言われる今年90歳のドイツ人ゲルハルト・リヒター、
ジャンヌレとともに今コレクターたちが追いかけるフランス人建築家 ジャン・プルーヴェ、
(以前はプルーヴェではなく、プールヴェと言っていたと記憶してます)
今回は日本が世界に誇るアートディレクター細谷 巖です。
自分にとっては一番仕事に近いジャンルのクリエーター。
細谷 巖は1935年生まれで、今年87歳。
ライトパブリシティ、通称ライパブの代表取締役会長、同時に東京アートディレクターズクラブの会長を現在も務めています。
なんと、69年間も1つの会社に在籍し、ずっと第一線で活躍しているという、これだけでもすごいことですよね。
デビュー作はJAZZピアニストOscar Petersonのポスター。
デビューは1955年、ジャズピアニストOscar Petersonの鮮烈なポスターの発表から。
見に行った時期が早かったからか、展示会場には人もそんなにおらず、BGMとして流れているピーターソンの演奏を聴きながら、作品をゆっくりと見ることができました。
ヤマハのバイクの広告ポスターは1961年の仕事。
Oscar Petersonも良いですが、展示の中で自分がシビれたのはヤマハのバイクのポスターですね。
写真を90度回転させ、バイクが真っ逆さまに下に落ちていくように配置し、疾走するスピード感を表現したデザイン。
走るバイクを下に向けただけで、こんな効果が生まれるなんて。
バイクのスピード感を強調するために、横で組まれた英語は、バイクの写真と対比させて字間をギリまで詰めている。
静と動、縦と横の緊張感のバランスが秀逸です。
感じることは簡単ですが、見る側を一瞬で惹きつけるためには、並々ならぬ高いレベルの構成力と技術が必要なことは言うまでもありません。
なぜ見た瞬間に惹きつけられるのか?それを言語化できることはとても重要のように思います。
でもほとんどの人は、理由を明確に言葉で述べることができない。
ただなんとなく良い、好きとしか言えない。
しかし、それを深く自分に問うこと、探ることは重要な行為です。
細部に隠されている作者の意図を、時間をかけて点検し、発見していくこと。
それがクリエーターにとって必要なスキルであり、訓練だと思います。
見た瞬間にハッ!とさせられる体験。
たった一瞬で見る者を惹きつけるために、作者はとても高度なことをしているんですね。
なぜカッコいいと感じるのか、探せば必ずそこに説明可能な要素があるのです。
もう尊敬しかないです。
流れるような写真と、シンプルでストレートなタイポグラフィーが生む緊張感。
シビれました。
このポスターの発表は1961年。
日本では丹下健三の設計による代々木の体育館、田中一光による世界初のピクトグラム開発、東京オリンピック前夜に数々の優れたクリエイティブが世に送り出された時期です。
この頃のジャパニーズデザインはすごく熱い。
会場では1960年作成のパンフレットのコーナーが広く取られています。
そしてもう1つ。
1960年に開催された世界デザイン会議で、内外の建築家、デザイナーに配布された会議用資料「び」。
この小冊子のエディトリアルデザインを細谷 巖が手掛けているのですが、これがですね、いやぁ本当にシビれます。
同じ時代を生きた丹下健三や田中一光たちと同じように、モダニズム=インターナショナルスタイルを通して、日本独自の美を世界に伝えようとするアプローチが見られますが、これは今の時代にも共通する視点であり、忘れかけていた感覚を呼び起こしてくれます。
そこにあるのはモダニズムに通底するLESS is MOREの思想であり、間に豊かさを感じ取れる日本人独自の感性、ジャパニーズデザインの原点を読み取ることができます。
カッコいいなぁ。
表紙からしてカッコいいです。見にくいですがタイトルの「び」はグレー、他は黒。
冊子では直線と曲線について語られ、曲線に日本の美があると書かれています。
60年前に発行された半世紀以上前の冊子に感銘を受けるっていう体験はとても貴重なことだと個人的に思ってます。
これから先にやってくる未来の可能性を探ることと同じレベルで、過去の素晴らしいアーカイブを探ることに未来があるように常々思っているんです。
過去の素晴らしい作品群に、そしてそこに魂を注いで作り上げてきた偉人たちの仕事、思考プロセスにヒントがあります。
現在を生きながら、過去と未来を同じように行き来することが、クリエイティブの手がかりだと思います。
60年前の貴重なパンフレットを再版した企画はナイスだと思います。
この冊子を再版して会場で販売している企画も素晴らしい。
銀座グラフィックギャラリーのオーナーは大日本印刷ですが(僕が10年以上勤めていた会社)、細谷 巖が手掛けたこの冊子は、当時競合の凸版で印刷されていたにも関わらず、今回自社で印刷、再版していることにも敬意を表します。
ですから、冊子には凸版と大日本印刷、競合2社の名前が奥付に両方掲載されている。
こんなことってまぁ、普通は絶対にないのではないかと。
僕が在籍していた時には、凸版は目の敵みたいな教育を受けてきましたが、大日本の懐の広さを感じてエライなぁと思いました。
テキストは日英仏3か国語で記載されており、写真はすべてモノクロですが、言語部分だけが国ごとに色分けされています。
モノクロ印刷に見えて、4色、いえ特色もあるので、5色6色で刷られている点も見逃せません。
凝ってます。

こうした多くの人が知らないデザイン遺産は、他にももっともっとあるはず。
そうしたDesign Heritageを1人でも多くの人に見てもらうべきだと強く思います。
「び」は、会場でもパネルでたくさん紹介されていましたが、僕ももちろん再版の冊子は買いました。
グッドデザイン賞受賞のパッケージは誰でも知っている身近にあるもの
最後に、細谷 巖を知らない人に「え、同じ人なの?」という情報をお伝えします。
会場では展示されていませんが、彼が手掛けた仕事で身近で有名なものがあります。
きっと誰でも知っている、大塚製薬「カロリーメイト」のロゴも彼のデザインなんです。
40年前に作られたロゴですが、今見てもまったく古さを感じさせません。
古さを感じさせないっていうか、、、、上で紹介したデザインにも通じる洒脱でハッとするアプローチは食品パッケージにも顕著で、めちゃカッコいい。
40年間パッケージデザインを変えずに、継続している食品って他にもあると思いますが、カッコいいってなると・・・・
思い出すのは、亀倉雄作の手掛けた明治のチョコレートですが、それももう今はありません。
40年前、日本語が1文字もない黄色いパッケージは、鮮烈だったに違いありません。

少し探してみましたが、近い既存書体は見つかりませんでした。
ロゴのタイプフェイスがもう突出しています。
医療の点滴分野で大きなシェアを持っていた大塚製薬が、点滴に代わって食べる栄養食品として開発したのが「カロリーメイト」
他にない画期的な商品のため、新しさを出すべきところを、あえてクラシック書体のベースボールフォントを持ってきた意外性。
栄養を持ち運べる、いつでもどこでも採れるというカジュアル感も持ち合わせたロゴ。
本体に入っている栄養成分をすべて英語で箱に表記し、シズル感を出したパッケージ。
目立つ黄色。
これを採用した大塚製薬も偉いなぁと思います。
結果40年間売れ続けているわけですから。

「細谷巖 突き抜ける気配 Hosoya Gan-Beyond G」は、10/24まで。
銀座グラフィックギャラリーで無料で開催されています。
急げ!

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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