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久しぶりに良い建築の展示 見るべし

クリエーター
Jun 25,2025

皆さん建築を見るのは好きですか?

自分は一時すごく建築が好きだった時期がありました。

TOTO(ギャラリー間)が出版していた「建築マップ東京(確かそんな名前)」という書籍を買って、実際の建築をあちこち見に行ったりしたものです。

自分が住んでいる代々木上原周辺には、篠原一男の60年代の名作住宅、ポストモダンを象徴する高松伸の地上ゼロ階地下3階の商業ビル、他にも長谷川逸子、坂茂、青木淳、隈研吾、安藤忠雄、みかん組、千葉学、納谷兄弟の集合住宅、ADH、谷尻誠、マニアックなところだとマウントフジアーキテクツ、そして我らが後輩で今は売れっ子大堀伸のデビュー作などなど、たくさんの名建築が点在しています。

それらを見て回るのが好きでした。

これらがすべて代々木上原に点在しているのがスゴイ。

そんな地区で、代官山蔦屋の建築で一躍知られるようになった友人のクラインダイサムアーキテクツに依頼して、うちの会社のオフィス(というかハウス?)を建ててもらったのも代々木上原。

最近では、コルビジェの弟子3人のうちの一人、吉阪隆正が建てた上原の住宅を女優の鈴木京香さんが購入して話題になりましたね。

建築でこんなに興味深い展示というのもなかなかないです
さて、なぜそんなに建築が好きになったのか。
そのきっかけは、1960年代にNYのMoMaで開かれたインターナショナルスタイル展という、当時最先端だったモダニズムの建築を集めて紹介した展覧会に端を発しています。
その展示で紹介されたモダニズム建築を見て、なんてカッコいいんだろうと思ったんです。
もちろんインターナショナルスタイル展が開かれたのは、60年も前のことで、紹介されている建築ももちろん60年前のものなのに、めちゃめちゃカッコいいんです。
ヨーロッパ、特にバウハウスをはじめドイツから広がったモダニズムの思想は、戦争でナチスの弾圧を受けたことにより、多くの建築家がアメリカに移住を余儀なくされ、その後アメリカの地でモダニズムは変容し、インターナショナルスタイル=世界標準と呼ばれる形に進化し、各国に広がっていきました。
ですから、建築家フィリップ・ジョンソンが企画して開かれたMoMaの展覧会は、非常に意味のある内容だと思われます。
ドイツやオーストリアで生まれたモダニズムの思想が、温暖なアメリカ西海岸の地でローカライズされ、CASE STUDY HOUSEという実験住宅のシリーズにつながり、イームズやサーリネンなどが手掛ける家具にも影響を与えて、ミッドセンチュリーモダンという流れにつながっていったという経緯があります。
コルビジェが提唱する近代建築5原則が具現化したサヴォア邸
そんな何年も忘れていたことを思い出させる、素晴らしい展覧会が開かれているので是非皆さんも見に行っていただきたい。
「リビング・モダニティ 住まいの実験展」
乃木坂にある国立新美術館で6/30まで開催中です。
この展覧会は、先に触れたフィリップ・ジョンソンがMoMaで開いたインターナショナルスタイル展を彷彿とさせるラインナップ。
いま、一周周ってモダニズムが再燃しているのでしょうか?
モダニズムは、ザッハ・ハディットのような有機的なライン持つCGで計算された建物とは真逆の、直行する直線のコンストラクションで構成された建築。
そこにミニマリズムの美学がある。
展示は、インターナショナルスタイルに通じるモダニズムを代表する住宅の模型や図面、写真で構成されています。
建築家が手描きで引いた図面を見ることができるのも貴重ですし(CADとかないですから)、特に各大学の建築の学生たちが作った精工な模型も素晴らしい。
近代建築5原則の1つ、水平連続窓の実寸模型展示
近代建築の3大巨匠、コルビジェ、ミース、フランクロイドライトの3人の作品も当然のごとく展示されています。
その中の一人、コルビジェが唱えた近代建築の5原則を実作で示した代表的なモダニズム住宅サヴォア邸。
1.ピロティ、2.自由な平面、3.自由な立面、4.水平連続窓、5.屋上庭園の5原則でしたっけ?(また思い出してきた、、、)
その中でもコルビジェが設計した水平連続窓がリアルサイズで展覧会場に復元されていて、これはgoodでした。
フランスでコルビジェのリアル作品に触れたことがない自分には、またとない体験になりました。
ルイス・カーンの手掛けたフィッシャー邸の模型
他にもモダニズムの巨匠建築家の手掛けた作品が目白推しなのですが、自分が好きな作品について少し紹介しますね。
ルイス・カーンはアメリカ人の建築家。
この人の代表作であるソーク研究所は、めっちゃカッコ良くて大好きなのですが、今回の展示は住宅縛りなのでフィッシャー邸が紹介されていました。
これ今から60年前の住宅と思えます?
モダンでしかないです。
星のやが軽井沢に今年建てたと言っても誰も疑わないでしょう(って例があんまりですけどw)
イームズと並んで、CASE STUDY HOUSEで一番有名な22番
他にも椅子の方が有名ですが、フランス人建築家のジャン・プルーヴェの自邸。
ジョンFケネディ空港の設計をはじめ、家具やインテリアでも知られるフィンランドからアメリカに移住してきた建築家エーロ・サーリネンの住宅。
同じく手掛けた家具の方が知られている、フィンランド人アルヴァ・アアルトの自邸。
そして自分も大好きな、CASE STUDY HOUSEの22番、ピエール・コーニッグによるLAの住宅。
LAの街を見渡せる素晴らしい眺望と、巨大なプール、極めて映画的なアイコニックな住宅と言えるでしょう。
そして、日本からは菊竹清訓。
スカイハウスという名前の自邸ですが、これがめっちゃカッコいい!
模型も素晴らしい。
展示されていた住宅の中で一番カッコいいと思いました。
ピロティ、仕切りのない一室空間、メタボリズム思想が反映された取り外し可能なアッセンブルの子供部屋。
天度木工による家具と内装がこれまためちゃ良かった。
これ70年前ですよ・・・・・
建築は、あまり進化していないのではと思ってしまいます。
この住宅は都内にあるので、いつか見に行きたい。
実は自分が住んでいる場所の前に、スカイハウスと同じ年に菊竹さんが手掛けた素敵な住宅が建っていたのですが、一昨年壊されてしまいました。
広大な芝生が広がる敷地に、打ちっぱなしの平屋がポツンと建っていてすごくモダンな住宅だったんですが、とても残念です。
日本からは菊竹さんの自邸スカイハウス、カッコいい!!
今見ても、インテリアがめっちゃモダンな住宅
最後に。
この展示の目玉は、3階に展示されているドイツ人建築家、ミース・ファンデルローエの住宅です。
バウハウスの校長だったミースも、ナチスに追われ、アメリカに移住せざるを得なくなります。
移住したアメリカの地で、世界に知られる名作ファンズワース邸を手掛けるのです。
今回はクラウドファンディングで集まった資金により、ミースの設計した幻の住宅がリアルサイズで、展示会場に再現されています。
世界初だそうです。
ミースの実物の建築に触れたことがない自分にとって、日本にいながらこうして身をもってサイズ感や視覚的なアングルを体験できる時間はとても貴重のことだと思えます。
朝から夜まで照明が変化する演出も良いと思いました。
是非皆さん、この貴重な機会に体験してみてください。
言わずと知れたミースの代表作ファンズワース邸
世界初 ミースの図面を起こした実寸の模型
あとになって、この展示は、京都大学の名誉教授岸和郎さんが監修していることを知りました。
そっか、日本のフィリップ・ジョンソンは岸さんだったんだなと。
フィリップ・ジョンソン自身も建築家であり、自邸のグラスハウスを設計し、建築界のノーベル賞ともいえるプリツカー賞を受賞しています。
岸さんも著名な建築家。
モダニズムに造詣の深い岸さんでなければ、このような展示ラインナップはできなかったでしょう。
CASE STUDY HOUSEの研究第一人者としても知られています。
だからピエール・コーニッグも今回の展示で紹介してるんだなぁ
僕と岸さんにはつながりがあります。
今から20年前、岸さんにお母さんの家の設計をお願いしました。
当時もモダニズムを志向する建築家はいましたが、その中でもっとも岸さんの作品が自分の感性にフィットすると思えたからです。
京都の建築家に依頼すると、設計費だけでなく、交通費の分が高くなるのですが、それを支払ってでも依頼する価値があると思っていました。
東京にはそういう人はいなかったので。
91歳になった今も、お母さんは岸さんに建ててもらった家で暮らしています。
ただモダニズムは、あまり人には優しくないので(特に老人にはね)、住むには覚悟が必要ですね。
京都大学名誉教授 岸和郎設計によるお母さんの家
ということで、最後におまけのエピソードの話をしてしまいましたが、この展示オススメです。
先月のカーサブルータスの特集「名作住宅100」の中でも、今回展示されている多くの建築が紹介されていますが、でもやっぱり実物を体験しないとその隠れた良さは伝わらないと思います。
30日までで終わってしまいますので、週末は是非新美術館へ。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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