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企業の「らしさ」とは何か 3

仕事
Jul 14,2025

さて、2回に渡ってお伝えしてきた企業の「らしさ」をつくるフレームワークについて。

3回目となる今回は、実際の事例を当てはめて見ていきましょう。

世の中にある実際の事例と照らし合わせて見ていくことで、気付くこともあると思います。

考え方のフレームの説明だけでは、あまり理解ができなかったけれど、実際の事例と一緒に見てみると、少しわかることもあるかもしれません。

ただこのフレームはあくまで自分で考えたものですから、一般的かどうかはわかりません。

もし必要であれば、皆さん試してみてください。

パッケージだけで、ブランドの「らしさ」を認知できるのはなぜ?
前々回、誰もが見ただけで「らしさ」を感じるパッケージデザインを紹介しました。
なぜそのパッケージで、そのブランドの「らしさ」を感じたのか?
書体なのか?色なのか?レイアウトなのか?
間違いなく言えることは、ブランドロゴによって「らしさ」を感じたわけではないということです。
その背景には、デザイナーが定義した厳格なトンマナがあります。
ブランドは人にも例えられると前回お伝えしましたが、どんな人に向けて(誰に)どんなことを(何を)実現するブランドなのでしょう?
まず企業が実現したい社会を知る必要があります
今回は第2回で説明したフレームを前提に、無印良品のブランドについて考えてみましょう。
無印良品を展開する良品計画は以下のような理念を掲げています。
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「人と自然とモノの望ましい関係と心豊かな人間社会」を考えた
商品、サービス、店舗、活動を通じて「感じ良い暮らしと社会」の実現に貢献する

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ポイントは「感じ良い暮らしと社会」っていうくだりかもしれません。
それでは先に解説した「誰に」「何を」「どのように」のフレームワークで考えてみましょう。
ここから先は松本だけのオリジナルの考察ですので、皆さんと認識が異なっているかもしれません。
特に正解はないと思われますから、そのまま掲載していますが、中には違和感を感じる人もいるかもです。
子供のいる40代女性はリサーチ結果によりターゲットに入れています
まず「誰に」対して
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シンプルで機能的な生活を送りたい人に
高品質なものを手軽に買いたい人に
環境にやさしい生活を志向している人に
40代既婚で子供のいる女性に

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もちろん無印良品は全方位的ブランドなので、ジェンダー含め固定のターゲットを持たないと思われる人もいるかもしれませんが、簡単に調査してみると、ユーザは圧倒的に女性が多く、その中でも40代がもっともコアだということがわかりました。
機能的と情緒的な提供価値を定義してみました
次に「何を」
ここでは機能的価値と情緒的価値の2種類が存在します。
デザインを行う上で、影響があるのは情緒的価値の方です。
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機能的価値
高品質でありながら低価格な商品を
環境にやさしい商品の価値を
シンプルで機能的なデザインを

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情緒的価値
環境に配慮した機能的なデザインによる気持ち良さを
自分らしいシンプルな生活を送る充足感を

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スローガン、ロゴマークにも企業が届けたい哲学が表れている。 そしてクリエイティブディレクター原研哉の言葉による定義は明快。
3つ目の「どのように」
「無印良品」というブランド名の背景にあるコンセプトやスローガンも大きなヒントになるでしょう。
ブランドスローガン「これがいい」ではなく「これでいい」 MUJI is enough
ロゴも欧文はヘルベチカ、和文はMB101という極めてノーマルな顔をした書体となっています。
これには「これでいい。」というスローガンの通り、控え目だけどそこにある、シンプル、機能的といったキーワードが当てはまるのではないでしょうか

無印良品のアートディレクターである原研哉が語っているビジュアルアイデンティティの考え方も探して見つけたので紹介します。
これはいわばブランドの「らしさ」を定義した言葉です。
前にも繰り返し伝えましたが、やはりクリエーターによる言葉による「らしさ」の定義は、ブランドの方向性を定義する上で、また社内/社外に共感を呼び起こすために、非常に意味があると思います。
これを読むと、「なるほど」と唸らせられますよね。
短いけれど、とても強くて明確な方向性を指し示しています。
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豪華に引け目を感じることなく、誇りをもって簡素であること。
無印良品に触れた人が自然にその思想に気がついてくれるような
ビジュアルコミュニケーションを目指す

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上記は無印良品の公式サイトに掲載されているキーワード
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シンプル、機能的、自然、おしゃれ、基本、普遍、素、簡素
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ここはオフィシャルサイトに掲載されていたコンセプトワードをそのまま掲載しています。
通常このようなワードをクライアントからは提示されませんので、自分で考え、デザインとしてはどのような世界感であるべきかを言葉で、そしてキーワードで定義することが重要です。
そして「無印良品」というブランドネームの背景にあるコンセプトやスローガンも大きなヒントになるでしょう。
ブランドを人として捉えると、キーワードは考えやすいという話も前回紹介しましたが、そのように考えることも1つの手段です。
深く掘り下げて、仮説推論で考えることが必要だと思います。

調査はここまでです。
以上の定義から発想したクリエイティブディレクションが、先ほどのパッケージデザインにつながっていくわけです。
商品はもちろん、企業広告、値札、インテリア、什器、パッケージデザイン、グラフィックすべてにおいて同じ世界観が展開されています。
ブレがないため、強いブランディングを実現できているのです。
統一されたフォント、少ない情報量、レイアウトで生まれる余白、2色以上使用しないカラー
これらの考え方は、空間でも徹底されています。
そして紙(オフスクリーン)でもデジタル(オンスクリーン)でも、それは同じ見え方に調整されています。
だからこそ、人は何かの情報を見ると、そこにロゴがなくても瞬時に特定のブランドをアタマに想起するのです。
企業広告からパッケージ、タグ、店舗まで統一されたディレクション
アナログ、デジタル問わず、細部まで徹底されているトンマナ
ここまでの調査を読み込んでいくと、無印のすべての制作物にある余白は、簡素な生活に対して感じる豊かさの表現だったり、ベージュも(普通の白い紙ができる前の状態)をあえてそのまま使っていることにも気が付かされたり、すべてが普通に見えて普通じゃないという、難易度の高いことをしていることがわかります。
そもそもコンセプトにある「簡素」とは日本人独自の感性ではないでしょうか。
ブランドとは人の頭の中にあるもので、企業が直接コントロールすることはできません。
だからこそブランディングという浸透活動こそが重要なのです。
簡素であることを誇りに思えるアイデンティティ。
簡素は豪華に勝る強さであるということだと思いますが、こうした考えはこのブランドがスタートした80年代には世の中にほぼない考えでした。
その考えを今でも変えずに継続していることに驚きを感じます。
競合サイトと明らかに異なるブランドの「らしさ」がある。
最後にもう1つ。
情緒より機能を重視するオンラインストアでは、今まで企業の「らしさ」を作り上げることは難しいとされてきました。
もちろんメインビジュアルなどエリアを限定すれば、ある程度の「らしさ」の実装は可能ですが、サイト全体では機能的な制約が多く、ある意味決まったルールの中でUIを設計することがユーザーを迷わせない定石とされてきたからです。
しかしそんな中でも、無印良品のオンラインストアは、ブランドならではの「らしさ」が見て取れます。
これがブランドの強さであり、企業の努力であり、戦略的な投資だと思います。
無印良品のオンラインストアと、競合であるニトリ、ダイソー、その他競合のオンラインストアを比較してみましょう。
色使いが違うだけで、遠くから見ると、どれがどの企業のサイトなのか判別は難しいですね。
無印良品は色も使わず、写真と余白だけで、ブランドの世界観を表現し、他社との差別化までも実現しています。
ユニクロのオンラインストアにも同様のアプローチが見られます。
唯一無二のブランドであることの好例です。
ユニクロにも無印同様の「らしさ」があります。
いかがだったでしょうか。
まず言葉による定義を行い、それを視覚化する順番で取り組む。
ターゲットをできるだけ絞り込み、そこに明確なコンセプト(思想と哲学)を持つ。
これらはサービスを提供する企業側に求められることです。
私たちはどの様な世界を作りたいのか、それがなければ、ブランドは弱いものになってしまいます。
その思想が強ければブランドも差別化された強さを持てることでしょう。
思想が明確であれば、行うべきクリエイティブディレクションも明快です。

企業の「らしさ」とは何か 1
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2025/06/1-6.html

企業の「らしさ」とは何か 2
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2025/06/2-9.html

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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