談話室松本をリニューアルしました。
これまでの談話室松本はこちらからチェックできます

  1. top
  2. 仕事
  3. 企業の「らしさ」とは何か 1

企業の「らしさ」とは何か 1

仕事
Jun 03,2025

前回ADCの展覧会の話をしましたが、その中で不二家のリブランディングについて触れました。

今回は、100年続く洋菓子店不二家のリブランディングを交えて企業の「らしさ」ついて考察していきます。

うちの会社で行っているブランド構築のプロジェクトでは、経営層や現場層の方々に、「らしさ」についてヒアリングする機会があります。

しかし質問される側にとって、自分の企業「らしさ」について教えてくださいと言われても、普段考える機会はほぼないと思うので、回答すること自体難しいのではないかと思います。

でも確実に「らしさ」はある。

難しいのはその言語化であり、さらに難しいのはその視覚化ではないでしょうか。

昨年大きく変わった不二家のロゴ
ここ5年間くらいで海外含め、たくさんの企業がロゴをリニューアルしました。
割と早い段階で自社のロゴをリニューアルしたのは、みんなが知っているグローバル企業、スターバックスやナイキでしょう。
両者に共通するのはシンボルのアイコン化です。
どちらも企業名であるタイポを削り、シンボルだけを残しました。
読ませる文字などはノイズだと言わんばかりに、シンボルのみを強調したロゴに変わっています。
誰もスターバックスという英字は読まず、グリーンで描かれたセイレーン(尻尾が2つある人魚)のマークだけでスタバと認識しているのだから、まぁ納得と言えば納得のリニューアルかもしれません。
店舗サインでも企業名が消えて、人魚の絵だけになったので、当時かなり話題になりました。
ナイキも同じですね。
文字がなくてもマークだけでブランドを認識できます。
遡れば、アップルが行なったようなセオリー。
以後多くのブランドが追随し、自社のアイデンティティを強調して、シンボルのアイコン化を行うようになりました。
どんどん見る側に迫って来るセイレーン
ZARAのリニューアルも記憶に新しいですね
これには、デジタルデバイスにおける視認性、記憶性を意識した背景があります。
世の中全体に、スマホがこれほど影響を及ぼすことがわからなかった時代に作られたロゴたちは、世の中の流れに最適化するために見直すことを迫られたという背景があります。
言い換えると、店舗も広告も、名刺もパンフレットも、一番影響力を持ったスマホに合わせたリニューアルを行わざるを得なくなったということです。
企業の「らしさ」だけを強調し、他の要素は削ぎ落すという作業が一気に広まったと言えるでしょう。
世界的なファストファッションブランドであるZARAのロゴには、シンボルマークはないものの、「らしさ」を残しながら、デジタルデバイスへの最適化を行った事例です。
新旧の「らしさ」を比較
そんな状況も鑑みて、不二家のリニューアルを見てみましょう。
不二家のリニューアルにおいても、こんなことを質問したくなりますよね。
なぜペコちゃんの顔を舌だけにしたのか?
なぜ企業名の書体を明朝に変えたのか?
クリエーターなら、これらの質問に明確に応えることができるはずです。
すべての印象は計画的に、意図的に、戦略的に練られて考案されているためです。
そこにイメージをコントロールする、プロの仕事が見て取れます。
時代のセオリーがここにあります
不二家のリニューアルで一番良い点は、ペコちゃんの顔は見えなくなったけれど、そのベロだけでペコちゃんの存在を感じられることです。
ペコちゃんこそが不二家の「らしさ」だと定義して、それを失わないレベルでリニューアルした点が評価できます。
リニューアルした後も、そこに企業の「らしさ」がある。
加えて、こちらも「らしさ」の要素であるレイモンド・ローウィのロゴを残しながら、和文を創業100年の老舗の品格を感じさせる変更を行っていることもデザイナーの視点を感じさせます。

ではどうやったら企業の「らしさ」をつくることができるでしょうか。
不二家の事例とは少し異なる視点で考察してみたいと思います。
誰が見ても、これはらしい!という事例を1つあげましょう。
まず以下のパッケージを見てください。
企業のロゴはなくとも、何のブランドか皆さんすぐ頭に思い浮かびますよね。
これこそが「らしさ」の正体であると思います。
ブランドロゴがなくてもすぐわかる「らしさ」
我々は、ロゴなどわかりやすい記号でブランドを識別しているわけではなく、それ以外の情報と情報の掛け合わせ、むしろロゴ以外のイメージの部分でブランドを無意識に判別していると思われます。
それでも、なかなか一言で「らしさ」を言い表すことは難しいですね。
どうしてあなたは、このパッケージを見て、そのブランドだと認識できたんですか?という質問とイコールでしょう。
皆さんだったら何と答えますか?
書体であったり、色であったり、その答えは人によって異なるのではないでしょうか。
そんなわずかなことでブランドを認識しているのか。
だからこそ、ブランド側としては、ロゴ以外の部分で、徹底的なブランドコントロールが必要になります。
オリジナルで考案した「らしさ」のフレームワーク
まず自分が普段行っている「らしさ」をつくる基本的なプロセスを紹介しましょう。
マーケティングや戦略立案のセオリーでよく使われるフレームワーク「誰に」「何を」「どのように」
最初に自分は、このフレームでコンセプトを考えることが多いです。
次にイメージのキーワードを複数出すこと。
それらを元にしたキャッチコピー、ボディコピーの考案
最後にカラーとトーン&マナーによる視覚的な世界観の定義
これらすべてが矛盾なく、1本のストーリーに貫かれている必要性があります。

重要なことは、言葉がブランドの起点となるという点です。
イメージから発想というケースもあるかもしれませんが、自分はあくまでイメージより前に言葉が来ると考えています。
イメージの解釈は、人の経験値による感じ方の違いがありますが、言葉はクリエイティブパーソン、クライアントであるビジネスパーソン、どちらもが使う共通言語であり、2者の間でのコミュニケーションにおいても齟齬は起こりにくいと思います。
またイメージを発想する手前の段階にある要素を定義するために言葉は必要だと考えています。
そのために、デザイナーであっても(デザイナーこそ)まず日本語をあやつれなければならないと思います。

次回は自分が普段行っている「らしさ」の定義について事例を交えて、誰でもわかるよう、なるべく簡単にお伝えしたいと思います。

SHARE THIS STORY

Recent Entry

松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター