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ADC2024に見る現代的発想のアプローチ

クリエーター
May 08,2025

ちょっと前になりますが、昨年末に銀座で開かれていたADCの展覧会についてのことを今回は書こうと思います。

この展示は毎年行われているのですが、今年もなかなか勉強になる内容でした。

ADCとは、Art Directors Clubの略称で、1年間に発表された日本の優れたデザインの中から選りすぐった作品に対して賞を与えるイベントとして開催され、この展覧会はその主な受賞作品を紹介するものです。

国民のみんなが知っているペコちゃんの不二家
川上恵莉子のルルメリーのパッケージ(大好き)、KIGIのオードリーの缶デザイン(女子の間で大ブレーク)、服部一成のキューピーのブランディング(調布にあるマヨテラス行ってみたい)などなど、発表された時から既に話題にあがっているデザインのオンパレードです。
その中でも、個人的には大貫卓也の多摩美の校章のデザインは相変わらずカッコよかったなーと。
同じ大学の卒業生で、うちの事務所にも遊びに来てくれた同級生、井上庸子の作品もありました。
それ以外にも、気になる作品が2点。
ギンザグラフィックギャラリーで開催していたADC展
まず1つ目はカロリーメイトのデッサンの広告。
これも交通広告として発表された時に凄く話題になりましたね。
自分も実際の広告見て、いやぁ凄い緻密さとインパクトだと思いました。
デッサンがこんな広告になるものなんだなぁと、自分の高校生の時を思い返しました。
出口が見えない中、毎日10時間以上デッサンを描き続けた日々。
あの頃、膨大なデッサンの向こうに微かに、しかし確実に見えていた仄かな光。
その光に近づくために描き続けることは、やっぱり辛い経験でした。
そんなことまで思い出させてしまう広告。
芸大生が描いたカロリーメイトを食べながら勉強やデッサンをする姿を描いたデッサン(わかりにくいですが、カロリーメイトを食べながらデッサンする女子高生の姿を描いたデッサンという意味です)
この広告のストーリーが面白かった。
ここ数年カロリーメイトは受験生を応援するシリーズです
美大を目指す女子高生と、理系の大学を目指す女子高生(どちらもちょっとマイノリティ?)
この2人の交流を描いています。
キャッチコピーは「光も、影も、栄養にして。」
このコピー自体は、個人的にはあんまりピントは来ないのですけれど、この解説がなかなか深い。

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消しゴムは間違いを消すものではなく、光を与える道具なんです。
美大以外の受験生もノートに書いては消し、自分なりの正解という光を見つけていく。
カロリーメイトは、そんな「没頭」という、人間の尊い時間を支え続ける食品であり続けたい。

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この発想って美術大学を受験した人じゃないと理解しにくいのじゃないだろうかと思っちゃいます。
確かに練り消し(僕らの時は食パンだったけど)を使って、自分の描いた木炭デッサンに光を与え、命を吹き込むような作業を繰り返しやってきました。
それが、女子高生2名のストーリーと素晴らしい描写の力で見る側に訴えてきます。
すごく印象に残る広告でした。
余談ですが、カロリーメイトのロゴは、1983年細谷巖のデザイン。
もうこのロゴ大好き過ぎます。
40年経ってもまったく古さを感じさせない、というか永遠に新しい、素晴らしいロゴですね。
デッサンのインパクトが凄かったカロリーメイトの交通広告
もう1点は、洋菓子の不二家のリブランディングです。
僕が中野に住んでいた頃、阿佐ヶ谷駅前に不二家があって、すごく身近な存在でした。
もちろんペコちゃんと、それに相反するような力強い漢字のロゴには親しみがあります。
良い意味での昭和テイスト。
でも時代は変わって、ピンクを基調としたどちらかと言えば子供向けのペコちゃんも、時代に合わなくなってきたのでしょうね。
今までって昭和の遊園地のような甘ったるい、砂糖菓子のような世界観だったように思います。
そこから日本で初めてショートケーキを作った、洗練した老舗洋菓子店という高級志向に舵を切ったようです。
リデザインのシンボルになっているのは何でしょう?
でも不二家のカッコいいFのロゴは、アメリカ人(実はフランス人)の大御所レイモンド・ローウィが1961年に手掛けたもの。
口紅から機関車までのキャッチコピー(=口紅から機関車までデザインする)で有名なデザイナーです。
このロゴは残して欲しいと思っていたら、キチンと残しておいてくれました。
デザイナーは、ルミネのサインなどで知られる木住野彰悟さんです。

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不二家のケーキを買った時、誰かにプレゼントした時の体験を、もっとワクワクするものにしたい。
そんな想いで、ボックスや手提げ袋、包装紙などをリニューアルした。

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60年以上前のデザインなのにシャレているローウィのデザイン
店舗の個性は明らかに以前よりなくなりましたが。
ペコちゃんの顔は消え、ペロリの舌だけをシンボル化した。
老舗感を出すために、年号表記を入れて、書体も品格のある明朝に。
カラーもブラウンに品よくまとめています。
店舗もクリーンになりましたね。
ただ店頭に必ずあったペコちゃん人形は、もうないのかなぁ。
そこまでは調べていないのですが、たぶんなくなっちゃったんでしょうね
そういえば、薬屋の前にあったサトちゃんも見かけなくなりました。
非常に今らしい口当たりで、みんな同じ方向へ進んでいるように感じます
これはもはや時代のセオリーのようにも感じます。
東急ハンズが消え「ハンズ」になった時にも、シンボルが出現しました。
ハンズのシンボルは手の指でしたが、新しいシンボルは漢字の手です。
不二家のシンボルはペコちゃんでしたが、今回ベロだけになりました。
どちらも避けては通れない、一点集中と単純化。
同じセオリーによる制作プロセスを感じます。
時代が反映されていることを感じますね。
でも、書体を安直に可読性の高いゴシックにしなかった点やレイモンド・ローウィのロゴを残した点、そして単純化してもワクワク感、ペコちゃんの存在感は担保している点は、ナイスだと思いました。
不二家のリブランディングのデザインを見ていると、やりたいことが明確に伝わってきます。
品があって、非常によいリニューアルだと自分は思いました。
ロゴまわりに新しい要素として加えた「Since1910」という追加要素が、企業の目指している姿を伝えるメッセージとなっています。
SNSの影響でデザインに共通セオリーが顕著になりつつある
今回紹介したカロリーメイトと不二家、2つの種類は違いますが、2例とも記憶に強く残るという点では、一定の効果があると思います。
広告のカロリーメイトと違って、ブランディングの不二家は遅効的ですから、今後その評価は皆さんがしていくことになるでしょう。
展示を見た感想をまとめると、当り前になってしまいますが、そこにあるのは小手先のカタチのデザインではないということ。
言うまでもなく、見れば一目瞭然、9割は思考のデザイン、アイデアで成立している。
SNSの影響で、同一化しつつあるロゴデザインの中にあって、あえてそれを選択せず、新しいことに踏み込んで、挑戦する姿勢が重要だなぁと思いました。
そして、その意志を発注側の企業も理解してくれること、2社で作り上げていけるかどうかが一番大切のように感じます。
そして、これらのアイデアは、どれもAIでは作れない。
クリエーターは、何を鍛えなければいけないのか、答えがそこにあると思いました。
もう展示は終わってしまいましたが、この記事を読んで少しでも皆さんの刺激になればと思って書きました。
ペコちゃんマークの変遷は、スタバのロゴの変遷と共通点

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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