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スマホを捨て街に出よう

クリエーター
Sep 30,2022

皆さん、美術館へ行ってますか?

え、あまり行ってない?

敷居が高い?いえ、そんなことはありませんよ。

特別な場所ではありませんから、気になる展示があれば是非積極的に見に行きましょう。

展覧会って、見逃したらサブスクであとで見ることはできません。

スマホばかり見ていても、感じ取れる要素は少ないです。

実物を見て体験しましょう。

現代美術最後の巨匠が東京で展覧会、それは行かなきゃ。
さてそんなわけで、今日は最近自分が行った展覧会でよいと感じたものを2つ紹介します。
どちらも今開催中ですから、現場に行って是非感じてください。

1つめは国立近代美術館でやっているゲルハルト・リヒター展です。
ゲルハルト・リヒター?難しい名前だな。ん?聞いたことがないぞ。
そういう人も多いでしょう。
ポロックのような、アクションペインティングの作品。
リヒターはドイツ人。
現代美術最後の巨匠と言われている人です。
なのに、東京の美術館で個展が開催されたことが今まで1度もないという、
だから知らない人も多いのでしょうね。
今年90歳になったリヒターの展覧会、彼が生きているうちに日本で開催する個展は、これで最後かもしれません。
これは見ておかないと!と思って先日行ってきました。
デザインワークのような巨大な作品。
大学生の時から彼の作品は見ていました。
ただ、その国に生まれたからなのか、テーマが戦争だったり、描くスタイルが常に変化していて、見方によっては捉えどころがない、1つのカテゴリーに属さない難解な作家だと思ってました。
画家ですが、ペインティングだけでなくインスタレーションもやる。
その表現手法は様々で、抽象と具象、主観と客観、自国と他国、それらを行ったり来たりしながら、見る側に問いを求めるリヒター。
デザインとアートの境界すらも行き来する。
作品に共通するのは、身近に起きていることも主観を廃して物事を静観するクールな視点。
写真のように何事も等価に捉えているように見えます。
二コラ・ド・スタールのような具象作品。展示の中で一番好きだった。
そんなに好きな作家ではなかったので、期待して行ったわけではありませんが、そのせいか実際に見ると予想以上によい展示でした。
特に巨大なマルチストライプの作品や、鮮やかなカラータイルを組合せた作品、それと対比するように油絵で描かれた風景画、その対比がとても良かった。
風景画は具象表現でありながら、ニコラ・ド・スタールのような抽象画で、それが良かった。
誰かに言われなければ、展示されている作品を1人の作家が描いたとは誰も思わないでしょう。
ポロックのアクションペインティングのような作品、80歳を過ぎて始めた鉛筆の抽象的なドローイングもたくさんありました。
固定のスタイルを持たない表現で、見る側に様々なボーダーを問いかけてくる展示でしたね。
松本の評価は3.5です。(5点満点)
展示は10/2まで。
マニア垂涎。オリジナルのスタンダードチェアの列。
さて、もう1つは建築の展覧会です。
リヒターもいいけど、こっちの方がさらによかった。
今東京都現代美術館で開催されているジャン・プルーヴェ展です。
ん、ジャン・プルーヴェ?また難しい名前だな、知らないぞ。
建築の展示って日本人は時々ありますが、海外の建築家の大規模な展示ってほとんどないですよね。
特にジャン・プルーヴェって、そんなにメジャーではないと思う人も多いでしょう。
でもですね、数年前から一部の人にとって、とても重要な存在になっているのです。
プルーヴェはパリ生まれのフランス人。
同じくフランスで活躍したコルビジェの次の世代の建築家です。
その彼がなぜ今注目されているのか?
20年くらい前に起きたミッドセンチュリーのブームに似ている現象だと思います。
ヴィンテージのセットはNIGO?それとも前澤さんのコレクション?
特にチャールズ・イームズですね。
当時、一部のマニアな人がビンテージの家具を購入し始めたことから火が付いて、東京都美術館で大規模な展覧会を開くまでになりました。
え、サブカル扱いだったイームズが、都美館(トビカン)で大規模展示???
当時僕もびっくりしました。
それまで、カーサブルータスが特集するくらいだったのに、展覧会から一気にメジャーな存在として知名度が上がりました。

ミッドセンチュリーに活躍した建築家の大規模な展覧会が開かれるのは、たぶんイームズ以来でしょう。
もちろんプルーヴェも昔から建築関連の人やマニアの間では知られた存在でした。
なぜここへ来てこのような状況になったのか?
それは著名なデザイナーなど、感度の高い人たちがプルーヴェの家具をこぞって購入するようになった背景があると思います。
その中で知られるコレクターはNIGOですね。
あとは、元ZOZOの前澤社長。
時代を超えて、美しいテーブルのセットですねぇ。
NOGOがプルーヴェについて熱く語るトークイベントが現代美術館で開かれてましたw
面白いですね
そして、なんと今回展示されている家具の一部は前澤社長のコレクションという・・・・
これまた面白いというか、何というか、、、
プルーヴェで一番有名なのは、スタンダートチェアと呼ばれるスチールの脚と木で組み立てられた椅子です。
これが60年代に大量生産されてフランスの大学などに数多く置かれていたんですが、そのオリジナルはめちゃ高額になってます。
この辺の背景も、イームズの時とよく似ています。

そして、忘れてはならないもう1つの背景。
それは、コルビジェの従兄弟であり、コルビジェの事務所で一緒に働いた建築家ジャンヌレの存在です。
ジャンヌレはコルビジェと同じくスイス人ですが、パリで活躍し、晩年はコルビジェのプロジェクトを手伝ってインドに長く滞在しました。
彼がインド滞在中にデザインした家具が、今すごく注目されており、一部の間でビンテージを購入することが大ブームになっています。
実はプルーヴェよりも、今はジャンヌレの方が熱いのではないかと思います。
今あちこちでジャンヌレの椅子を見かけます。
サカナクションの山口一郎はジャンヌレのビンテージ家具を集めているし、片山正道もコレクションしています。
で、このジャンヌレが一緒に協業したのがプルーヴェなのです。
2人は一緒に組んで建築のプロジェクトを手掛けました。
その住宅プロジェクトも、美術館の館内にそのまま再現されています。
このフランスアーキテクチャーの流れ
コルビジェ>ジャンヌレ>プルーヴェ
ここが今アツいのです。
もう1人、コルビジェに協力し、ジャンヌレと一緒にLCの椅子のシリーズをデザインしたシャルロット・ぺリアンも少し前にブームになりました。
ウェグナーやフィンユールなど北欧勢ではなくて、フランスの建築ブームというのが不思議ですが、アメリカにはない文化的な香りというか、北欧にもない都市生活の道具というのが、一部のクリエーターに支持されるのかもしれないですね。
タンタンの中でビーカー教授が座る椅子もプルーベヴェ
エルジェ作「タンタンの冒険」に出てくるビーカー教授が座っていたのもプルーヴェの椅子だったということを、この展覧会に行って知りました。
タンタンはベルギーの漫画ですが、フランス語圏で同じ時代に描かれた漫画ですものね。
展示はすごくよかったです。
言ってしまえば、プレハブ工法ですが、60年代当時の合理的な考え方、モジュール化して大量生産を可能にするという、モダニズムに通底する考えが見て取れます。
アルミ素材で住宅を作ろうなんていう人は、当時いなかったんでしょうね
自分が以前購入したプルーヴェの作品集の表紙にもなっている、彼のシグネチャーともいえるアルミで作られた丸い窓の実物を見ることができました。
松本の評価は4点です(5点満点)
なかなか満点はないですから高得点です。
モジュール化されたアルミの住宅。
最後に、自分がプルーヴェの展示を見に行こうと思った理由、実はもう1つあるんです。
それはこの展示の企画者が八木保さんだということ。
知らない人も多いと思うのですが、彼はスティーブ・ジョブスと仕事をした数少ない日本人。
ジョブスに雇われて、アップルストアのブランディングを手掛けた人です。
グラフィックデザイナーが、統一規格として世界中に展開される店舗のコンセプトワークをやった事例。
そう、日本のグラフィックデザイナーが店舗設計を手掛け、そこからアップルは快進撃をしていくのです。
世界中のアップルストアに置かれている大きな白木のテーブル、アップル製品の展示台としてストア内に複数配置された什器は、八木保が計画したものなのです。
日本人である八木さんが寿司屋のカウンターから着想を得て、ジョブスに採用されたアイデア、それは寿司が一番美しく見える寿司屋の白木のカウンター。
テーブルに置かれたアップル製品は、美しい寿司ネタってことなんですよね。
禅ですねぇ。
LESS is MOREですねぇ。
粋ですねぇ。
彼の持っているコレクションも今回展示されています。
是非実物を見て、皆さんも体験してみてください。
プルーヴェ展は東京都現代美術館で10/15まで。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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