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アットリーニからの誘惑

ファッション
Jun 22,2018

20年前にチェザレ・アットリーニのスーツをオーダーしました。

洒落モノなら必ず知っている憧れのブランド、アットリーニ。

キートンと並び、ナポリにある世界の最高峰のサルト(テーラー)です。

男子のあこがれのブランドアットリーニ
メンズのドレススタイルを追求していくと2つの場所に行き着くはずです。
1つはロンドンのサヴィルロウ、そしてもう1つがイタリア南部のナポリ。
チェザレ・アットリーニの父親であり、伝説のサルトであったヴィンチェンツォ・アットリーニが勤めていた店の名前がロンドンハウスであったことが示すように、ナポリはイギリスのメンズファッションを模倣することで発展してきました。

ブリティッシュスーツを手本にしながら、そこに南イタリア独自のスタイルを取り入れてきたことで、現在ナポリはメンズドレスファッションの中心地と言えるまでに成長しました。
船底の形をしたジャケットの胸ポケット=バルカポケット、
肩と袖の縫い目を雨が降ったようなギャザーにするマニカカミーチャ、
襟や生地の端を2本のラインで縫うダブルステッチ、
袖についた4つのボタンを少しだけ重ねて縫い付けるキッスボタン、
今ではイタリアンクラシコの代名詞となったこうした数々のディテールは、チェザレ・アットリーニの父親、ヴィンチェンツォ・アットリーニが考案したものです。
でも、そうした形式やディテールではなく、本当の素晴らしさはどこまでも柔らかく、丸みを帯びた自然な風合いにあります。
マシンメイドでは実現出来ない、手縫いならではの最高の着心地なのです。
気合いを入れてアットリーニのオーダーをした時もありました
20年くらい前の僕は、世の中で素晴らしいと言われたこうしたスーツに、これまたナポリの最高峰のシャツメーカーと言われるルイジボレリのシャツを合わせて、颯爽と打ち合わせに・・・(打ち合わせの内容はともかく・・・汗)
イタリアクラシコに触発されて、後発でオーダーができるようになったインポートのハイブランドでも、同じようにスーツをオーダーしてみたりして、一人で悦に入っていました。
ドーバーのモデルで一斉を風靡したボリオリ。懐かしい。。
それがどうしたことでしょうか。
トレンドのピークを過ぎた服が、輝きを失って色褪せた過去の遺物に見えてしまうように、
ポストモダン建築がテーマパーク施設のように見えてしまうように、
突然、目の前の景色の見え方が変わってしまいました。
イタリアンクラシコという名前が示すように、ベーシックでクラシックな服であり、時代の変化には関係がないはずです。
でも いや、僕が単に飽きっぽいのでしょうか?
それもあるかもしれませんが、それだけではないように思います。
UAが代理店になるもっともっと前に買ったカルーゾ。サヨナラ。。
今イケてるもの(この場合の尺度はお金)を手に入れることは、気持ちがいいことかもしれません。
しかしそれは、イケてる自分を演出する手段であり、その価値観は概ね経済に偏っています。
もちろん商品は素晴らしいと思いますが、それは自分で感じた良さというより、外部からの影響、世の中で認められているから買うという、株への投資みたいなものだと思います。
今ではこうした服を購入すること自体がむしろダサいと思うまでになってしまいました。
この認識のパラドックスは何なんでしょうか・・・・ 自分でも悲しくなります。
人間って本当にいい加減なものですね。
これほどまでに感覚と言うのは変わってしまうものなのです。
男のマロン。ブリベンモス、そしてFOX。どちらもオーダーでした。。
世の中で素晴らしいといわれるものを実際に身につけてみる体験は、ないよりあった方がよい。
その体験自体を楽しむことは、自分の視野を広げるという意味で、また嗜みとして悪いことではありません。
しかしここ数年、愉しみ方が変わってきたように思います。
マテリアルな価値や、媒体のアオリ文句はどうでもよいように感じることが多くなりました。
ブランド信仰はゼロとは言わないけれど、かなり弱くなりましたね。
この感覚は、たぶん自分だけではないはずです。
大好きだったフランス生地のドーメル。あ〜悲しい。
ということで、自分の持っていた服を40着くらい処分しました。
また着るかもしれないという迷いもありましたが、1年間で一回しか着ない服は、もう潔く処分しました。

この変化はどうして起きたのでしょう?
自分に問うてみると、価格的な価値、メディアであおられて受け売りで購入するということ自体に、価値を見いだせなくなってしまったように思います。
確かに高いモノは最高です。
着心地もよい。
しかし、40万のスーツを買うなら、8万のスーツを買って(もうスーツも着ないことに決めましたが・・)、残りの32万で旅行に行った方がよっぽど有益だと思うようになったのです。

どんどん服は安くなってます。
これからもさらに安くなっていくでしょう。
価格の高い安いも、ブランドも、オンオフも、性別もなくなり、ボーダーレス化がどんどん進むと思います。
気持ちが上がる対象は人それぞれ。
ファッションへの情熱がなくなったわけではないのかもしれませんが、みんなが認知しているから、高額だから、有名なブランドだから、という価値観は今の自分にまったくフィットしなくなっています。
そういう投資みたいな買い物は、そういうのが好きな人がしていればいいですよね。
ブランドとか何でもいいし、好きなものを好きなように着ればいい。
皆さんはどうでしょう?
タンスからほとんどのスーツが消えました。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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