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自分が勤めていた会社と競う経験

仕事
Nov 22,2019

前回の記事からの続きです。

以前からお世話になっている方からある日、声をかけていただきました。

相談された内容は、お店の内装リニューアルのコンペに参加して欲しいというもの。

今までも、フィットネスなどの店舗設計を担当したことがありますが、飲食は初めてでした。

銀のさらの新業態の1号店は浜松中央店
相談されたのは、自宅でも会社でもよく利用する「銀のさら」の店舗の空間設計の話でした。
宅配寿司として全国に360店舗を展開する業界1位の「銀のさら」ブランド。
今までの宅配寿司の業態を、テイクアウトに転換して魅力的な店舗を作りたいという内容です。
オリエンテーションで、「銀のさら」を運営するライドオンエクスプレスの社長からいただいた要望は、テイクアウト向けに店舗をリニューアルしているドミノピザをベンチマークに、スターバックスのような魅力的な店舗を作って欲しいとのことでした。
ライドオンエクスプレスは上場した時から、名刺のデザイン、企業サイト構築、様々な販促ツールまで、色々なものを担当させていただいています。

新業態となるテイクアウトの第1号店は、浜松中央店になると伺い、図面をもらって早速提案に着手しました。
コンペの参加企業は4社。
設計施工専門の上場企業、僕が以前勤めていた上場企業の設計部門、ブランドのスタート当初からすべてのツールデザインを請け負っている制作会社、そしてうちの会社の4社でした。
以前勤務していた会社とコンペをするなんて、初めての経験、、。
それにしても規模が違いすぎる・・・・
企業規模は400倍くらい差があります。
参加する企業の担当者が全員参加してのオリエンテーションだったために、自分たちの立場にかなりの場違い感があったことは否めませんでした。
コンペ時に提案した最初の案。気に入ってました・・
まず、「銀のさら」を利用する現在のターゲットと、新業態であるテイクアウトを利用するターゲットが異なることに着目し、どのような購買体験が適切であるのかを基点に、プランニングをスタート。
イートインスペースは設けない前提で、テイクアウトに求められる店舗の機能、誰のための店舗なのかということを深堀していきました。

現在のターゲットは、特別感のあるイベント=記念日・年末年始など人が集まる際に「銀のさら」を利用している。
そのため平均購入金額が5000円以上で、回転寿司よりも価格帯は上である。
スーパーやコンビニとも競合しない。
注文時の主導権は女性が握っている。
ピザよりも注文する年齢が高く、紙を見て電話で注文する顧客が多い。
そして重要な点として、ロードサイド店舗であるため、近隣から歩いて商品を取りには来ない。
配達エリア外の人がテイクアウトを目的に車で来店する可能性が高いということも考慮する必要がありました。

加えて、海外にある寿司のデリバリーチェーン、国内の類似業態の店舗も調査しました。
他にも現在の店舗設計のトレンド、コンタクトポイントの提案
そしてコンペに参加している競合他社が、たぶん提案してこないであろう、ロゴマークのデザインや、ブランド認知の施策=バイクやユニフォーム、グラフィックの施策に提案書のページ数を使いました。
導線設計や、内装で使用する素材の提案では、コンペに参加する専門の会社に歯が立たないことはわかっていたので。
車から見てすぐわかるよう、前面全体が発光する店舗に
ロゴのグラフィックパターンを壁紙にしたインテリア
結果、このコンペを受注し、テイクアウトの1号店の設計を任されることになりました。
初期のプランでは、ショーキッチン(来店した顧客に調理している様子を見せる仕掛)や提灯など和のエレメントをより多く導入することを考えていましたが、打ち合わせの途上で、それらはなくなりました。
プランの中で、もっとも時間を使ったのはロゴマークの開発とカラー計画だったと思います。
それが空間の体験価値のカギを握っていると思っていたからです。
ロゴマークは、たくさんの案を提案しました。
「銀のさら」のネーミングコンセプトを調べていく過程で、「銀」は銀シャリ、いぶし銀の技という意味があり、「さら」には何でも受け入れる丸い形という考え方がベースにあることを知りました。
この要素は守るべきだと考えて、その延長線上で考案しています。
ブランドのコアである銀シャリ=米のカタチ、さらの丸いフォルム、海外進出の際に日本を伝える赤、SNSなどでマークを単体で使用することを考慮して、漢字の「銀」をあしらったシンプルなものが採用されました。
このマークをパターン化し、ブランドコアとして壁紙、販促ツール、すべてに展開しています。
グラフィックから空間を考え、視覚でユーザに記憶してもらうことを想定したプランです。
新しいロゴマークとブランドスローガンを開発しました
ロゴマークを空間のアイキャッチとして配置しています
ロゴマークをグラフィックパターンに展開
ロゴのグラフィックパターンをユニフォームやオリジナル商品に展開
店舗オープン以来、売上は前年度より大幅アップとなり、当初の目的は達成されました。
クライアントの皆さんたちにも喜んでいただけて、本当に嬉しかった。
3社でもよかったコンペに、我々のような場違いの会社を最後に呼んでいただき、提案の機会をいただけたこと、それもこれも、つないでいただいた方がいてくれたおかげであり、感謝に堪えません。
縁をカタチにして結果を出す、その背景には想いがありました。
正直に言ってしまえば、コンペで選んでいただいた時、数千万のお金を投じて初めて挑戦するプロジェクトなので失敗はできない、
コンペに参加している他社より相当に規模が小さく、実績も少ない我々で果たしてよいのだろうか、
着手当初はそう感じていました。
自分が企業で働いていた時は、無自覚であっても企業の看板で仕事をしていたことは間違いありません。
よい意味でも守られていたと思います。
それがない状況で、自分が以前勤めていた巨大企業とコンペで向き合うことは、過去の自分と対峙するような感覚もあったかもしれない。

以前自分が大きな企業に勤めていた時にはまったく知らなかった社会のヒエラルキー、
会社を辞めて1人で仕事をしていく中で、仕事以外の部分で直面した難局、仕事を通して味わった様々な悔しい想い、
その一部を、前回の記事に書きました。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2019/11/post-76.html

ただ、絶対いつか見返してやろうなどと思っていたわけではありません。
そんな想いや経験に対峙してそれを乗り越えていくには、それまでと同じく好きなことをやり続けることしかないと思います。
もっとよい方向に、もっとよい形で、もっと勉強してやっていこう。
グラフィックパターンをパッケージデザインに展開
様々な販促ツールもデザインさせてもらいました。
コンペを獲れた時は嬉しかった。
会社の規模や、社会にあるヒエラルキーの尺度ではなく、提案そのものを評価してくれた。
クリエイティブを信じてきてよかったと、心から思った瞬間でした。
その時、自分が今まで感じてきた壁のようなもの、何かから一瞬だけでも解放されたように感じました。
素直な心で、自分の道を決めて歩むこと、
途上には色々なツライことも待っているだろう、
しかし、それを越えて進んでいくためには、その道を選んだ時の、初心の素直な気持ちを持ち続けてやっていくことでしか乗り越えられない。
そんな思いがしてなりません。

大丈夫、まっすぐ素直でいれば、いつかは超えられる。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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