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あなたの会社はなぜ存在するのか? 2

仕事
Apr 03,2024

企業経営においてパーパス(Purpose)という言葉をここ数年よく聞くようになりました。

パーパス経営という概念は、2010年を過ぎたあたりにアメリカから日本に入って来て以降、徐々に広まってきたワードです。

ハーバード大学で生まれたデザインシンキング(デザイン思考)のあとくらいだったと思いますが、パーパスという言葉は、日本でも新しモノ好きなマーケターの人たちやMBAを学ぶ人たちの間で使われるようになり、今では一般のビジネスパーソンの間でも普通に会話されるようになりました。

皆さんも聞いたことはあると思います。

理念を込めて新しくしたプラネットの企業ロゴです。
パーパス(Purpose)は、日本語に直訳すると「目的」「目標」です。
ビジネスシーンでは近年、企業の社会的な存在価値や社会的意義を意味する言葉として使われています。
「自社は何のために存在するのか」「その事業をやる理由は何か」といった根源的な問いの答えとなるものがパーパスです。
日本語で近い言葉でいうなら「志」でしょうか。

日本では、2019年に国内で初めてソニーがパーパスを定義しました。
この出来事はニュースなどにも取り上げられ、一部の間で話題になりましたね。
これがソニーのパーパスです。
「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。」

パーパスに沿ってソニーは以下のことを実践しました。
・パーパスと、その世界観を表現するキービジュアルをポスターにして全世界に配布
・社長のパーパスへの思いをつづった署名入りレターを配信
・ビジュアルで理解を促進するためのビデオを作成
・各事業の事業戦略を、必ずパーパスと関連付けて策定する
・自社サイトにて、世界中の社員に「自分自身のパーパスは?」「日々の業務の中でどんな時にパーパスを意識しているのか?」をインタビューし、記事を公開

その直後コロナ禍に入りますが、その中でもソニーは過去最高売上を達成したことで、パーパス経営に注目が集まりました。
2020年には国内2社目として、富士通がパーパスを定義します。
それが以下の言葉です。
「わたしたちのパーパスは、イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくことです。」
こうしてグローバル企業を中心に、以後3年間でパーパスの事例が増えて現在に至っています。
何をするか?(MISSION)ではなく、なぜやるのか?(PURPOSE)
前回は愛知県に本社を置く室内緑化を推進するグリーンアメニティ企業、株式会社プラネットのパーパス開発のプロセスをお話しました。
パーパスとは、企業の志「なぜやるのか?」を明確に定義、宣言すること。
土を使わず、水だけで育つハイドロカルチャーは、室内の空気浄化、保湿などの機能に優れ、室内で過ごす人のメンタル面からも健康維持に貢献できることがわかっています。
またメンテナンスの面でも、土を使わないことで廃棄量を減らし、メンテナンスが簡単で遠方からでも管理が可能であるなど、サスティナブルなメリットがあります。
ハイドロカルチャーで健康、環境に貢献する。
全国にある自社農園で育てたハイドロカルチャーを提供するだけでなく、ハイドロカルチャーに関するナレッジ全般をサービスとして提供することにより、広く社会に貢献する企業となる。
そのためにはハイドロカルチャーの最大の特徴である「根」に徹底的にこだわること。
それが社会にイノベーションを起こすことにつながっていく。
根にこだわり社会にイノベーションを、そして一人でも多くの人にWellnessを提供するために自社が存在する、それをパーパス、ビジョン、ステートメントに込めて定義しました。
以下が、定義したプラネットのパーパスです
「根からはじまるイノベーションでWellbeingな社会を創造する。」
詳しくはこちらに書いています
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2024/03/-1-3.html

プロジェクトでは、企業ロゴのリニューアルも依頼内容に含まれていました。
プラネットに限らず、こうしたブランド構築のプロジェクトでは、まず企業の「らしさ」を言語化することから着手します。
次にそれをビジュアルに置き換える。
創業から今まで、40年近く使われてきたロゴを変えるという重大な業務です。

そのために、私たちは企業を実在する人に置き換えて考えていく手法を取ります。
デザインシンキングの中に、ペルソナ思考法というフレームワークがありますが、それと同じように、企業のパーソナリティを人の印象に例えて言葉にしていく。
プロジェクトの冒頭で行った、ブランド意識調査の中で出てきた、自社を表現するのに適切なワードをまとめ、それを参考にその企業の「らしさ」や強みを明らかにしていきます。
ブランドパーソナリティを探る「らしさ」の定義
以下はブランド意識調査の中で出て来た、社内の人がプラネットという会社(=自社)にふさわしいと考えるイメージワードです。
「一歩先を行く」「挑戦する」「クリエイティブ・専門性のある」
「常識を覆す」「イノベーションを起こす」「斬新な」「先駆」「先進」「魁」
この結果から、尖った印象を求めていることがわかります。
これらをまとめると、求めている企業イメージは以下のようになるでしょうか
「先進性、専門性があり、社会にイノベーションを起こす、そのために常に挑戦し続ける企業。」
現状と今後追加すべきブランドパーソナリティを人に例える
ブランド意識調査の中では、自社を表現するイメージワードだけでなく、企業が現在アウトプットしている様々なデザインに関する調査も合わせて行います(ロゴ、名刺、Web、会社案内など)
このデザイン調査においても、企業イメージの視覚情報を人に例えたワードに置き換えていきます。
その結果、現状では「おとなしい」「素朴な」「保守的な」「気高い」「実直な」という印象がデザインにあることがわかりました。
意識調査で出現した、なりたい企業ワードを人に例えると、
「自立した」「柔軟な」「アクティブな」「素早い」「頼もしい」「きめ細かい」
現状のプラネットにはない、今後追加すべきパーソナリティがあることがわかってきます。
社員が思われたいイメージと、外から思われているイメージにギャップがあるということです。
別の側面から、現状のパーソナリティに追加して、未来のあるべき「らしさ」を人格で定義してみます。
現状「実直で、おとなしい職人気質」「知識は豊富だが説得に饒舌ではない」「保守的な人」
あるべき姿「自ら判断できる」「相談して頼れる」「挑戦する」「使命感が強い人」
これは企業にとって今後必要な機能、打ち出すべきサービスやイメージでもありますが、こうして現状に加えるべき要素を洗い出すことも、デザインする上では非常に重要です。
何をどのように変えて行くべきなのか、それはデザインに求められる要素ともいえるでしょう。
企業のロゴは全社員の心の拠り所であり、旗印でなければなりません。
そのためには、こうでありたいという意志、得たいイメージを具現化する必要があると考えます。
パーソナリティに合致する書体を複数選ぶ
まずロゴとして企業名に使う書体ですが、言語化した企業のパーソナリティに近いイメージを持つ書体を、既存のフォントから探します。
書体というのは制作された国や時代、その使用用途など、背景にある出自にヒントがあります。
フォントにも人と同じようにパーソナリティがあるのです。
今回はSabon、GOTHAM、Uni Sans、Daxなどで初回の提案を行いました。
前述した企業の「らしさ」を表す言葉、それに合致する書体を複数選定するプロセスになります。
最終的には、絞り込んだ既存書体をベースに、オリジナルフォントをつくりました。
社名の由来からDNAを探り、シンボルの検討に取り入れる。
次にシンボルマークの考案ですが、社名の由来が企業のDNAであることが多いです。
Planetの場合、社名の由来は「Plants」+「Network」の造語で、植物を提供する理念をネットワークで社会に拡げていくという志が社名に込められているそうです。
このことも検討材料にしながら、シンボルマークを考案していきました。
「根からはじまるイノベーション」というステートメントが先に決まっているので、その方向性とイメージを合わせることが前提です。
「根」「水」「P」「室内緑化」「イノベーション」「先進」「植物」「ネットワーク」「健康」「環境」「挑戦」「社会課題の解決」などなど、企業が持つアイデンティティを多角的に考えて視覚化の検討を重ねました。
深く深く、何度も繰り返し考えなければならないフェーズです。
企業ロゴの背景にあるコンセプト
社名の由来でもあるネットワークの広がりを視覚的に表現
都市に広がるハイドロカルチャーのネットワーク
最終的に決まった案は、「人と植物の共生」をコンセプトにしたものです。
このワードは新しく定義したVISIONにも含まれています。
植物を表す漢字の「木」
これを「∧」 と「+」のパーツに分解。
「∧」=人、「+」=価値創造と見立てました。
ヒトと社会に価値を提供する、というコンセプト。
木、すなわち植物を表すこのパーツは、社名を大文字の英語で表記した「PLANET」の構成要素にもなっており、それは企業のDNA、社会に植物=ハイドロカルチャーを増やすというプラネットの存在自身を指すものです。
色は水耕栽培としてのブルーと植物を表すグリーンの組合せ、いずれも「先進」「未来」「イノベーション」を感じさせるよう明度と彩度を調整したブライトカラーを採用しました。
人と植物との共生を基本に、根からイノベーションを起こし、創業時の志である「植物を提供する理念をネットワークで社会に広げていく」ことを視覚的に表しています。
企業のロゴは全社員の心の拠り所であり、旗印でなければならないと書きましたが、社員の人たちがロゴを見た際に、自分たちがやるべきこと、進むべき方向性や志を思い出す、リマインドの機能をシンボルマークに持たせることができたらと考えました。
そしてこのシンボルマークは、ユニフォーム、サイン、ツール、様々なシーンに展開可能で、覚えてもらう記号として機能することも狙っています。
社名は英文、和文ともにオリジナルフォントで作成しました。
和文、英文ともに企業のオリジナルフォントを作成しました
名刺や封筒などのコーポレートツールへの展開を行い、プロジェクトはWebサイトの制作へと進みますが、こうして開発したアイデンティティのデザインシステムは、最後にデザインガイドラインにまとめます。
ここまででプロジェクトは終わりと言いたいところですが、実はこれでスタート地点にようやく立てたということを意味します。

パーパスは、企業が日々どんな使命を果たし、どんな未来をつくっていくのか、という企業の根幹になるもの。
ですので、なぜ存在するのかという、パーパスの根源的な問いには、ここから実現していくべき要素が含まれています。
ここから自分たちが理想とする未来の姿にどれだけ近づけるか、それはパーパスの考えが社内にどれだけ浸透し、行動変容につなげることができるかのチャレンジであり、ここからは社員の皆さんにかかっているのです。
実現したい未来に近づいているかを判断する基準があれば、経営的な判断軸がブレることなく、意思決定にもスピードが出ます。
そこまで早く到達することを目指さなければなりません。
こちらもぜひお手伝いしたいと思っています。

次はコミュニケーション展開としてWebサイトを紹介したいと思います。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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