談話室松本をリニューアルしました。
これまでの談話室松本はこちらからチェックできます

  1. top
  2. 仕事
  3. 紙のカタログはなぜなくならないのか?

紙のカタログはなぜなくならないのか?

仕事
Jun 06,2017

こういう仕事をしていると、紙の印刷物とWebメディアについて考える機会が多くあります。

それぞれに特性があり、使われる用途も異なると思っていますが、つい20年前までは世の中に紙媒体しかなかったため、長い間多くの用途を印刷物が担ってきました。

そのいくつかは既にデジタルに変わっており、今後もこの流れは避けられないと思います。

しかしながら紙の印刷物はなくならないのも事実です。

UNITED ARROWS今季のカタログいろいろ
僕たちの仕事はクライアントの魅力を創出して価値を向上させることにありますが、その多くを担うのがコンシューマが直接触れる分野のプランニングやデザイン。
アイデンティティを定義したら、そのルールに沿って様々なツールに要素を落し込んでいくわけです。
インテリアやサインの仕事もありますが、制作するツールの多くは紙とデジタルに大別されます。
ファッションの仕事を例に取っても、ブランド訴求をしていく際、この2つの分野の制作が多いのです。
単純に印刷費用のかかる紙媒体はやめて、全部デジタルにしてしまえばいいじゃないかと思われるかもしれませんが、そうもいかないのです。
もちろんデジタルの方が安価で、顧客の住所へ送る送料もかからず修正も簡単。
デジタルだけでシーズンビジュアルを発信しているブランドも中にはあります。
しかし前述のとおり、紙には紙媒体の特性があって、その効果・役割もデジタルとは異なります。
デジタルも紙もどちらも同じ効果なら、当然デジタルのみで展開した方がいいでしょう。

さて前置きが長くなりましたが、世の中を見ていて最近こうあるべきだと感じた事例を今回は紹介しますね。
セレクトショップのユナイテッドアローズでは、他のブランド同様、シーズンビジュアルを紙の冊子で制作しています。
Web上でもスタイルブックとして月に数回デジタル画像を発信していますが、それとは別に紙のカタログを制作して店舗で展開しています。
このカタログの編集、デザインが秀逸で
「テキストを読まず、画像のみで判別するデジタル媒体」
「ページをめくるインターフェイスでテキストを読ませて魅せる紙媒体」
という2つが明確に差別化されている好例だと感じました。
もちろんコンタクトポイント(ユーザがブランドに接触する場所)の特性で
「画像で判断したらすぐに購入できるEC直結のデジタル」
「売上より記憶に刻まれる、ファンを作るための付加価値を目的とした紙媒体」
という役割の差もあります。
それらがうまく役割分担された好例と言えると思います。
必ず封筒もオリジナルで作っていてお金かかってます。
特徴的なフォントとシネマチックな演出。
「仕事と洋服」
様々な職業の男たち10人が登場し、その人の仕事にあったコーディネートを接客で提案するというストーリー。
販売員とのやり取りが映画のようなモノクロのドキュメントタッチで紹介されて(テキストは字幕風)、全身のコーディネートが完成すると色がついてカラーになる。
以前SNSキャンペーンでマーケティングの賞を受賞した”情熱接客”の紙上レポートといったところですね。
ただのスタイリングではなく、一人一人のお客様に合った提案という課題解決型の編集が効いてます。
一般の人をモデルとして登場させ、販売員の提案力にフォーカスした魅せる編集。
このシリーズ、毎回うならせますが今回が一番うなったかも。
山本康一郎さんのスタイリングと平林奈緒美さんのデザインという黄金のタッグで毎号作られているカタログは、今回でシリーズ19冊目。
毎回素晴らしい内容とデザインですが、今回はホントに唸らせます。
大判でかなりのボリューム。
デジタルではまったく表現できない、紙媒体ならではの魅力を放っていて本当によいお手本だと感じました。
こんなことしているブランド、他にあるのかな。。
すべてニューヨークロケ、現地の大勢のモデルではない一般人を使ったスタイリング、大量のページ、大量の撮影カット、箔押し・特色などの凝った印刷技術の導入、、、
コストカットだけを目的に、すべてをデジタルに移行するのではなく、印刷物として豪華なカタログに予算を割いているUAは凄い会社だなあと感じますね。
相当お金かかっていると思います。
企画、デザイン、編集の力、紙でしかできない価値。脱帽です。
写真集か?とも思ったりしますが、紙はこうあるべきだと思います。
デザインのアイデアがまた凝ってて面白い。
僕は毎号このシリーズのカタログを集めて保存しています。
これが毎号、店頭で無料でもらえるのがスゴいです。
カタログもらうためだけに店舗に行きたくなります。
それがこのカタログが持つ意味でしょうけれど。
結構なページ数で凝った編集。読ませます。
洋書のペーパーバックを模した原宿本店のUNITED ARROWS&SONSのカタログも凝ってます。
カタログなので、スタイリングはもちろん紹介されてますが、冊子の中味のほとんどは色々な人を起用したコラムを中心とした読み物。
しかも全部英訳付き 笑
こっちも相当お金かかってます。
こういう遊びは80年代を思い出させますね
今の時代にあって、こういうことをするのは意味があると思います。
やっぱりUAスゴいなあ。
お金はもちろんだけど、そこにアイデアと戦略、そして遊び(これ重要)がある。
WOMENのカタログは一見普通に見えるけどお洒落。
商品の価格帯が下がれば、編集や見せ方も変わります。
その他にもウイメンズのカタログ、1つ下がってBeauty&Youthのカタログなど比較してみると、それぞれに違いがあって色々なことが分かって面白いです。
コストやコンタクトポイントだけの差異で考えず、紙とWebのカタログはそれぞれどうあるべきか?紙でカタログを作るならその優位性はどこにあるのか?もっと突き詰めて考えるべきだと思います。
デジタル化されることが主流の中、紙による表現の可能性・効果がまだあることを見せてくれて嬉しくなる出来事です。
続けて欲しいですね

SHARE THIS STORY

Recent Entry

松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター