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「ソー・ロング・ムッシュ」

音楽
Jun 15,2017

先ごろ、ムッシュことかまやつひろしさんのお別れ会が開かれ、スパイダースが10年ぶりに再結成したニュースがありましたね。

僕はムッシュのファンでしたから、いなくなってしまったのはとっても残念です。

以前このブログでも、ムッシュのアルバムを3枚くらい紹介しましたが、今回も自分の好きなアルバムを1枚紹介します。

小西康陽プロデュースによるムッシュかまやつ自己ベストです。

15年くらい前に発表されたアルバムですが、今でもまったく色褪せないのは小西さんの手腕でしょう。

箱型のジャケットもよい。Je m'appelle MONSEIUR 我が名はムッシュ
スパイダースに始まって、フォークに転じたソロ活動、アニメ”はじめ人間ギャートルズ”のエンディングまで、常にムッシュが好きでした。
たくさんの好きなミュージシャンがいますが、その中でもムッシュは特別な輝きを放っています。
なぜ自分はムッシュのことが好きなのだろうか?
今までも何度かその理由について考えることがありました。
一言で言ったら、彼の編集のセンスが好きなのだと思います。
やっているのはもちろん音楽なのですが、それは音楽のようで音楽ではない。
惹かれるのは音楽ではなく、音楽を通した彼独自のスタイルなのだと感じています。
音楽のスタイルではなく、生き方のようなもの。
人としてのスタイルに惹かれるのです。
スパイダースには堺正章、井上順の他、小林麻美の旦那である田辺エージェンシー社長、太陽にほえろ!の主題歌を作った大野克夫なども在籍した
ムッシュは、最初ジャズトランペットを学んだようです。
その後、イギリスで発生したマージ—ビートの影響を受け、Kinksをお手本にしたようなGSのバンド”スパイダース”でデビューします。
それはファッション含め、英国のModsスタイルのコピーであり、ムッシュが弾く”フリフリ”のギターソロなんかKinksの”You realy got me”そっくりですよね。
その後、GSブームが下火になってスパイダースが解散した後は、吉田拓郎作曲の”我が良き友よ”を歌って大ヒット。
その頃になると、自分をGSのかまやつではなく、「フォークのかまやつです」と自己紹介しちゃうわけです。
GSの人たちはもちろん、洋楽が好きで音楽始めたんでしょうから、フォークっていう極めて日本的な、エレキギターとは対極にあるような音楽ジャンルは、敵みたいなものだったんじゃないですかね。
それに簡単に寝返っちゃうムッシュは、スタイルがない、売れるためなら何でもいいのか?みたいにきっと思われちゃったんでしょう。
そのあたりのことは、このCDの中でマチャアキが”カメレオン”という表現で語ってます。
フォークのあとは、ユーミンをプロデュースするなど、ニューミュージックにも進んでいくわけですが。
フリフリのジャケットにムッシュだけ写ってない理由は遅刻w
でもスタイルがないのではなくて、僕は逆にスタイルがあると思うのです。
音楽ジャンルという狭い範疇にとらわれずに、色々なものを取り入れて自分のスタイルで表現するっていうのが、極めて編集的というか東京的で、僕は大好きなのです。
ただ時代を考えたら、少し早すぎたかもしれない。
稀有で非常にバランスの取れた、才能ある人だなあと感じます。
どのジャンルをやっても自分のスタイルがあって、しかも何をやっても洒落ているのが素晴らしい。

1976年、荒井由実&ティン・パン・アレーとの演奏。素晴らしいの一言。


このアルバムがいいのは、ただ曲をセルフカバーで演奏しているだけではなく(もちろんそれも良いですが)、語りが入ってラジオ番組のように構成されているところ。
曲の間に、ムッシュが昔のことを色々思い出しながら語ったり、ゲストの堺正章がムッシュについて語ったり、そうしたドキュメンタリータッチの構成が他のアルバムにはない、たまらない魅力になっています。
いろんなことを語っていますが、そのテーマは主に音楽で、ムッシュの幅広い音楽性を伝えることに主眼が置かれているアルバムです。
“ゴロワーズを吸ったことがあるかい”は、もちろんマストで最高なのは言うまでもありませんが、”ソー・ロング20世紀”もサイコーです。
ムッシュのスタイル、編集感みたいなものが如実に表現されています。
ただ単に自分が好きなものを脈絡なく並べて、メロディをつけただけの曲なのですが、上も下も和も洋も独自の感覚で並列に並べて、編集された雑誌的というか、洒落ていて本当に大好きな曲です。
この曲を聞いた時は、これだ!と直感的に共感するものを強く感じました。

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Krugの凍る寸前のヤツ
レノマのジャケット
ハモンドのB3
VOXのブライアン・ジョーンズモデル
ポートベローマーケット
サンローランのシルクのシャツ
飯倉のキャンティ
ジョルジュサンク
コモ
ジャンコクトー
昇龍の餃子
ロイヤルアルバートホール
マーラーの5番
ハロッズの食品売場
チェットベイカー
赤坂砂場
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原曲は1969年発表の「ソー・ロング・サチオ」です。
サチオとは、当時人気レーサー兼ファッションモデルだった福澤幸雄さんのこと。
レース中、不慮の事故で25歳の若さで亡くなってしまった彼を忍んで、スパイダース時代に作った歌です。
「ソーロングサチオ」を収録、すべての演奏を1人で行った名盤
ファッションを追っている人を見てもまったく魅力を感じませんが、時代に合わせてチューニングしながら、自分のスタイルがある人に惹かれます。
それは、世の中に対して自分の物差しが必ずあるということ。
ムッシュもそういう人だったのではないかと思います。

そうしたムッシュの編集的視点は、今自分がやっている仕事に直結しています。
ムッシュの生き方が好き。
お会いしたことはないですが、自分の心の師匠とも感じているのです。
「ソー・ロング・ムッシュ」

過去の記事
http://blog.10-1000.jp/cat34/000432.html

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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