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思考の総量だけが、デザインの質を決める

仕事
Jan 23,2020

皆さま、今年も頑張って1つでも多くの新しい発見、プラスアαの価値をご提供していきたいと思います。

よろしくお願いします!

さて、間が空いてしまいましたが、2020年1発目は展覧会の話題からいきましょう。

なぜ展覧会?

そこに新しい発見や価値、自分が学べるプラスαの素となるヒントがたくさんあったからで、是非皆さんにもご紹介したいという想いからです。

石膏で作られたヤクルトの容器のモックアップ
今、六本木の21_21 DESIGN SIGHTで開催されている「マル秘展 めったに見られないデザイナーたちの原画」を紹介しましょう。
普段から展覧会を見に行く機会はそこそこありますが、この展示は自分にとってかなり刺激的で、特別なもの。
多くのことを学べる内容でした。
日本デザインコミッティに現在所属する26人のうち、23人のスケッチ、図面、模型が展示されています。
日本デザインコミッティとは、「グッドデザインの啓蒙」を目的に、デザイナー、建築家、評論家たちが集まり、1958年に結成された団体。
メンバーは、深澤直人、原研哉、隈研吾、松永真、永井一正親子、佐藤卓、平野敬子などなどの面々。
いわば日本を代表するクリエーターの方たちです。
ギンザ松屋の7階にこの団体が運営する展示スペース&物販コーナーがありますが、以前このブログでも書いた通り、マジでサイコーの場所で、個人的に東京で一番好きな場所かもしれないです。
本当にサイコーなので、銀座に言ったら是非松屋7階へ直行してください!
好きすぎて、そこに住みたいですw
作品展示の方法も参考になる展覧会でした。
さて展示の方を見て行きましょう。
入口を入ると、ポスターにもなっているヤクルトの容器から展示が始まります。
これを設計した松本哲夫という人について僕は詳しくないですが、ヤクルトだけでなく、新幹線のボディも設計した人と聞いて凄いなぁと。
分業化が進んでも、分野や大きさは関係ないっていうことですよね。
1968年の発表です。

隈研吾の高輪ゲートウェイ駅の建築模型や、深澤直人のHIROSHIMAのモックアップなども展示されていますが、仕事柄グラフィックデザインの方を重点的に見てきました。
そこから得るものはたくさんあって、会場で唸って声が出そうになりましたね。
唸るポイントはどれも共通しています。
かいつまんで紹介しますね。
原研哉が装丁を手掛けた単行本HOUSE VISION2
完成度の高い手描きのラフが圧巻です
まず、原研哉が装丁を手掛けた単行本の200ページにも及ぶ構成ラフ。
すべてのページが緻密な手書きであること。
もうそれはデザインと呼んでもいいくらいの完成度であり、見てオドロキしかなかった。
僕も以前は雑誌をデザインする際に、同じようなラフを何十枚も書いていましたが、精度のレベルが違います。
オリンピックのロゴもオール手描き
そして同様に、原研哉が手掛けたオリンピックロゴの仕事。
著作権で問題になった佐野研二郎の案ではなく、次点になったこちらの案の方がクオリティが高いと称賛する声も多かった案です。
これもですね、、、すべて手描きで、しかもデータ化した最終の納品物をトレースしたのではないかと見間違うようなクオリティで、もう成果物そのものというレベル。
何度も何度も繰り返し描いていく中で、複数あった案が1つの確信に変わっていく工程が見てとれます。
デザイナーが細部までこだわり抜いていることがわかる。
佐藤卓によるホテルのロゴは、手帖の手描きメモから
同じく佐藤卓によるNHKエデュケーションナルのロゴ
他にも、佐藤卓の仕事に感嘆しました。
打ち合わせの際に持ち歩く、小さな手帳に描かれたメモやアイデアスケッチがそのまま展示されていて、毎日忙しく他の案件の仕事も同時に進めながら(かどうかはわかりませんが、多分)断片的に浮かんだ案を忘れないよう身近な手帳に描き残している。
後日それを見直してチェックした跡が残っていて、自ら選考しながら絞り込んでいく過程が見てわかります。
このやり方は自分と一緒じゃないか、ということ。
何度も何度も繰り返し考えている様子がそこから十分に伝わってくるのです。
日本を代表するクリエーターだから、ほぼ1発でよい案が出せる、そんなわけはない。
何度も何度も繰り返し考え、1案に絞り込み、最後にデータ化したものを調整し、アウトプットまで辿り着いている苦悩がひしひし伝わってきます。
そして、展示されているほとんどすべてのクリエーターの手描きのラフは、最終的にデータ化された成果物とほぼ変わらない。
PC上で仕上げているのは当たり前ですが、PC上で工夫して案をブラシュアップしているものがほとんどないということ。
手描きのラフを、PCではトレースしているだけのように見えるのです。
思考は手描きラフの段階で既にフィニッシュしており、ゴールは明確に見えているということを示している。
展示に共通していたのが、PCの作業で作っている案が変容したりしておらず、むしろPCはただの清書用のツールとして使っているというのが、一番興味深い点でした。
その手描きによるイメージの精度に驚かされるばかり。
この図は展覧会を見た後に僕が考察したものです。10の工程のうち、データ作成は最後の1のみでよいことを再確認
もちろん様々な角度から見たアイデアの着眼点は勉強になります。
でも僕にとって、この制作プロセスの展示から得られるのは、手描きの重要性の方が大きかった。
もし制作に10のステップがあるとするなら、考えること=手描きのスタディに9を使って、データ化&調整に残りの1を充てている印象です。
ここにアウトプットの精度を高める示唆があるように思いました。
むしろできるだけ最終段階までPCを使わないことを自分に課した方がいいのかもしれない、それが自分がたどり着くべきゴールへのイメージの精度を上げる鍛錬につながる、ということです。
つながる風車、文化の風を受けて「話す、書く、読む、書く」四つの羽が回る
もう1つ、言葉の重要性も感じました。
絵だけでなく、言葉を添えることにより、今まで見ていた絵がさらに深さを増して見えてくる。
なぜそこに至ったのか、言葉が思考を伝える役目を果たし、それによりさらに輝き出すということ。
佐藤卓が手掛けた光村図書のCIに添えられた言葉、そのコンセプトに唸らされてしまいました。
言葉で伝えることの重要性。
その言葉はデザイナーが自らの言葉で伝えるべきものだと思います。
デザイナーにとって言葉の力は、非常に、非常に重要だということです。
必要な要素は、論理的であり、かつ情緒的であるということでしょうね。
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/company/logo/index.html

この展覧会は3/8までやってます。
まだまだ時間があるので、混む前に是非行くことをオススメしたいです。
きっと気づきがあるでしょう。
混まないうちに是非見に行ってください
最後に、展覧会でこの言葉が展示されていたわけではありませんが、
展示を見ていて、以前見た何かで原研哉が語っていた言葉を思い出したので引用しますね。
「思考の総量だけが、デザインの質を決める」
深いです。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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