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200万人の13歳へ向けたメッセージ

仕事
Feb 25,2021

いつものようにある日突然、取引のない会社からメールが来ます。

こちらから営業活動を行っていないため、新規の仕事は、ほぼ100%問い合わせから。

いつも感じますが、世の中に星の数ほどある制作会社の中から、うちの会社を選んでアプローチしてくださるのは本当に嬉しいです。

1年生から3年まで、国語の教科書3冊のアートディレクション。
以前東京に、どのくらいの数の制作プロダクションがあるのか、調べたことがあります。
帝国データバンクのデータベースに「企画」「デザイン」「システム開発」という分野で登録されている会社がどれくらいあるのか、帝国データバンクの人に頼んで調べてもらいました。
結果、東京だけで1,200社くらいあることがわかりました。
ただこれは帝国データバンクに登録されている会社の数だけです。
ライバルの調査会社として、東京商工リサーチもありますが、そちらの登録数は入ってません。
帝国データバンクに登録されているのは、上場企業など大きな会社が業務を依頼する際に、安全かどうか、帝国データバンクに信用調査を依頼した会社だけ。
言ってみれば、一部の大企業と取引している会社に限られますので、実際にはこの何倍もの数の会社が存在すると思われます。
かなり少なく見て仮に1,200社だとしても、うちの会社を見つけて声をかけていただく確率は1/1,200。
本当にすごく少ない機会でビジネスが成り立っているという驚くべき事実があります。
セミナーや広告出稿もまったくやっていないので、どこから弊社を見つけてくださるのか、
SEO対策もやっていません。
奇跡ともいえる出会いです。
しかしながら、そこからの展開は、必ずコンペや相見積もりになるのが常で、僕らは他社との比較のために、最初のテーブルに乗せてもらう機会をいただけるだけ。
本当の力を試されるのは、連絡をいただいたあとからなのです。
それでも1/1,200の出会いは嬉しく、そのご縁を取引まで持っていくことができるか、それは僕らの力量にかかっている。
中学生半分以上が学ぶ教科書。力が入りました。
どこかでうちの会社の実績を知って、ご連絡をいただくこともあります。
今回連絡をいただいたのは、雑誌「宣伝会議」の奥付にクレジットされているうちの会社の名前を見つけて、とのことでした。
歴史ある雑誌である「宣伝会議」は、毎月1冊丸ごとデザインを担当してもう6年になります。
連絡いただいたのは、誰でも1度は名前を聞いたことのある教科書の会社でした。
文科省が定める4年に1度の大改訂の年が近づいている、そのため中学校の国語の教科書をリニューアルする前提のコンペに参加してもらえないか?という依頼でした。
しかし、僕たちは教科書をつくった経験が1度もない・・・・
教育の分野にもあまり詳しくないし、できるのか?というのが最初の正直な感想でした。
でも教科書を作った実績がない、うちのような会社に声をかけていただけるなんて、その縁に応えたい。
コンペへの参加を承諾し、いつものように受注へ向けて提案書の制作に着手したのでした。
美しいビジュアルで魅せるページ「季節のしおり」は息抜きに
教科書にはいくつか押さえておかなければならないことがあります。
可読性を意識したユニバーサルデザインの適用、他の教科書との差別化、その出版社が持つDNA=らしさの表現。
そして教科書の採用を左右するトレンドです。
教科書でトレンドというコトバを使うと語弊があるかもしれませんが、他の一般書籍と同様、キャッチーな新しさを取り入れることは教科書において重要な要素なのです。
本自体のページ数・重量もそうですし、イラストのタッチや絵柄、構成、見て難しそうでなく、飽きさせない仕掛け、それでいて内容は充実していること(矛盾していると思われそうですが、、、)
もちろん、教材・編集ありきなのは言うまでもありませんが、視覚的な要素が担う部分は大きいです。
特に義務教育科目である以上、難しそうに見せないことに注意を払いながら、それでいて内容はしっかりしているという点は押さえなければなりません。
国語が苦手な中学生にとって、国語の授業の時間が苦にならず、興味を持って学べる工夫、そこに視覚情報が担うべき役割があると感じていました。
そのために多くの時間を細部の点検に費やしました。
構成要素の1つ1つをピックアップして検討を重ね、見直すプロセスは、他の案件と同様、課題を抽出し、目的を共有した上で改善する、ブランド構築の手法と変わらない。
僕は「らしさ」を教科書に持たせること=教科書ブランディングのアプローチだと感じています。
コンペを受注して、制作を進行する中でも、それは繰り返し感じていたことですね。
カバー含め、各学年を固有カラーで構成しています。
そして、この教科書は、その出版社が発行する教科書の中で、もっとも高いシェアを持ち、「国語の教科書といえば」と言われる代表的な出版物です。
さらに言うと、日本で一番採用されている教科書であり、何年にも渡って国民の半分以上が学んできた教科書であるという事実。(毎年およそ200万人がこの教科書で勉強しています)
大げさに言うと、今までも未来も、日本語の学力を担う教科書なのです。
これはお会いした際、最初にお聞きした内容でした。
選んでいただいたことは、とても嬉しかったけれど、僕たちが担当したことで、そのシェアを下げるわけにはいかない。
絶対にそうなってはいけない。
非常に重大な責務を感じる仕事でした。
様々な販促物のデザインも担当させていただきました。
半年をかけて、1,2,3学年で総計1300ページ以上をデザインしましたが、大きな山はスタート時の改善計画にあったことは言うまでもありません。
そこに膨大な時間を割きました。
この単元はどうあるべきか、編集部とスタッフみんなで繰り返し考えて意見交換を行いました。
業務を進める中で、見やすさ、飽きない工夫、それ以外に、この出版社らしさとは何か?それを何度も何度も繰り返し考えた。
明確に言語化できない、いわば行間にある間のような「らしさ」
なぜこの教科書が今まで多くの方に支持されてきたのか?
どこがよいのか?
それがわかったとしても、それをトレースしただけでは足りない。
懐かしさと新しさを同居させるようなアプローチを試みたつもりです。
結果、シェア率は前回より、さらに5パーセントほど伸びました。
本当に良かった。
日本の7割近い子供たちが、この教科書で日本語を学ぶなんて本当に嬉しい。
今回の仕事は本当に気合の入った関ケ原のようなプロジェクトだったように思いますw
サイトの制作にも相当気合いを入れたつもりです.
サイトでも他社との差別化に多くの時間を使いました。
さて制作も終盤に差し掛かり、やっと完成だと喜んでいたら、同じ出版社の別の部署から声がかかりました。
次は、サイト構築のコンペに参加してくれないか?という連絡でした。
え、またコンペ・・・・・?
https://www.mitsumura-tosho.co.jp/2021c_kyokasho/
紙同様、サイト構築の方も頑張って獲得しましたが、教科書をつくるプロセスを経験したことで「らしさ」を学び、それを反映させたことがプラスに働いたことは言うまでもないです。
多くの時間を通して、編集部の方々が目指すこと、この出版社の「らしさ」を学び、表現したつもりです。
個人的には特に、国語以外の美術や道徳の編集部の方々とやり取りさせていただけたことは刺激的でした。
自分が美術の教員を目指していた時のことを少しだけ思い出した。
紙面のデザインを担当しただけでなく、学ぶシーンの動画の撮影~編集、Webサイト構築も多面的に担当させていただいたことで、トータルなブランディングにつながったと思います。
制作に関わった全教科がすべてシェアを伸ばす結果につながったことが、本当に嬉しかったです。





digは今年で創業から25周年、今までたくさんの仕事をやってきました。
その中でもこの仕事は、経歴の中で忘れられないプロジェクトになったと感じています。

日本にいる200万人の13歳たちに向けたメッセージ。
光村図書の皆様、今回は貴重なお仕事で、私たちを選んでいただき本当にありがとうございました。
少しでもお役に立てたなら嬉しいです。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター