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デザイン思考について考える

私の履歴書
Mar 11,2021

皆さんお元気ですか?

緊急事態宣言は解除されず、延長になりましたが、街に出てみると、人があふれていて、延長した意味はあるのだろうか?

レストランの時短営業を継続すれば、感染は減るのか?

かなり疑問です。

夜の外食ができないだけで、警戒感はかなり薄れている気がします。

一般人が宇宙ステーションに滞在する日も近いです。
さて、今大学でデザインの講師をしている話は、前々回お伝えしました。
最初大学に行って、20歳の学生たち80人を目の前にした時には、
何を話してよいのかわからず、もちろん気軽に声をかけるなどもできず、
80人に囲まれての授業は、恐怖さえ感じました。
コロナ感染のリスクではなくて、若い子80人に囲まれるというシチュエーションは
人生で初めての体験で、あまりのアウェイ感で、オヤジ狩りに合うのじゃないだろうか?
という恐怖ですw
20歳以上も年が離れている大勢の人たちと(その多くはパーカーを着ているw)、直接対峙する機会なんてないですよね。
非日常すぎて緊張しました。
少しずつ慣れてはいきましたが、でもやっぱり慣れない・・・
もっと環境に慣れて、自分が勉強しないと駄目ですね。
大きい教室で密ではないとはいえ、20歳の3年生80人。
さて先月、半年間に渡って学生たちに行ってきた演習課題の発表会がありました。
80人が10チームに分かれて、与えられたテーマの中から課題を見つけ、その課題に対してデザインで解決できるアイデアを出し合う。
その解決策をカタチにしたプロダクトのモックアップを作る。
最終講義は、そのプロセスを制限時間の8分間でプレゼンテーションを行うという内容です。
半年間、毎週5時間アタマと手を使って考えてきた内容を、8分で説明しなければなりません。
着眼点(アイデア)、プレゼンテーション技術、モックアップの精度、グラフィックデザイン、
見るべきポイントは複数あり、4人の先生方による総合評価になります。

今回出された課題は、宇宙ステーション内で6ヵ月間生活する宇宙飛行士が感じる悩みを
デザインで解決するという、誰も体験したことのない課題。
宇宙空間の生活について、毛利さんに直接聞きにいければよいですが、そうもいかない。
コロナ禍により、対面でのインタビューや市場調査に行けないことが、この出題の背景にありました。
限定的かつ具体的な課題を与えて、解決策のみを求めるのではなく、
課題自体も自由に発想して、それを自分たちで解決するというプロセスが逆に面白味があったように思います。
課題の着眼点をどこにするかで、解決までの筋道が大きく影響を受ける。
デザインで解決できる課題に着眼しないと、そもそも難しい課題でした。
こんな空間で6ヵ月も生活するのは、きっと不便なことでしょう。
女性の宇宙飛行士のコスメや美容に着目するチームもあったし、
宇宙ステーション内での食べる行為に注目したチームもありました。
無重力空間で色々なモノがなくなってしまうことへの課題、
狭い宇宙ステーション内でのプライベート空間の確保について、
また、無重力で腰をかがめる前屈の姿勢が取れないことに対するストレスの解消など、
色々な課題が出てきたのが面白かったですね。
こうした課題に対して、デザインで解決する思考プロセスは、
彼らが社会へ出てから働く上で、ビジネスにも大きく役立つ、実践的な課題だと思いました。
水は使えないために、半年間シャワーはなしです。
毎日の食事もレトルトのようなパッケージ。
学生たちの考えた課題と向き合っていて、1つ気がかりだったことがあります。
不便なことを機能で解決するというプロセスは、ある意味単純な構造であり、それ以上にはなりません。
人たちの心は動かないということです。
それ自体が新しい価値を持ち、輝き出すためには、意味、意義を考え、使う側の体験価値や気持ち、エモーショナルなレベルまで深く探求することが必要です。
機能、利便性による解決に加えて、数値化できない感性に訴求することが重要なのです
そのような感覚を共感、共鳴と呼んだりしますが、それなくしてプレゼンテーションで相手の気持ちを動かすことはできません。
それは人の内面に目を向け、自分の身の回りの生活を観察することが必要不可欠。
このステップを踏んでいるかどうかが課題の成果を大きく分けることになります。
誰も体験したことがない宇宙生活の課題について学生達が分析。
リモートも交えながらのプレゼンテーションです。
抽出した課題から1つのコンセプトを導き出し、分析し、仮説検証を繰り返し、具体的なカタチに落とし込む、そのプロセスの中で、使う人の感情の動きに着目し、体験や気持ちに寄り添い、個別解を導き出す。
このようなプロセスのことをデザイン思考(デザインシンキング)と言ったりします。
デザイナーだけが用いるこのような考え方が、ビジネスにおいても、またそれ以外のシーンでも有効だと昨今言われるようになりました。
特に現在、デジタルな領域が進化したことにより、顧客のリアルな体験を重視する傾向、モノがあふれコモディティ化して差別化することが難しくなってきた中で、より注目されるようになってきたと思います。

僕が通っていた美術大学では、こうした考えは一切教えてくれませんでした。
ただモノ作りのことのみを、そしてアカデミックを辿る文脈においての学習がほとんどすべてだったと思います。
自分と社会の接点の作り方、社会において自分がどこで、どのように創造性を発揮し、それをイノベーションまで昇華し、マネタイズに向けられるか、そんな授業は1つもなかったし、誰も教えてくれなかった。
美大を卒業した全員が社会に出て迷い、カルチャーショックを受け、空白の4年間を後悔したと思います。
今はどうかわかりませんが、以前の美大はいわば、社会から隔絶された純粋培養の場であり、社会と切り離されてクリエイティブを学ぶ場所でした。(だからその分楽しくもありますけれど)
デザインそのもののクオリティ(表現)を向上させる訓練は必要ですが、それだけでは職人になるしかありません。
10代から、課題解決の思考法となるデザイン思考を学ぶことは非常に重要だと思います。
僕は自分の10代を振り返り、それを痛感します。
僕だけじゃないでしょう。
美大に通ったことがある人なら全員が感じていることだと思います。
実際にNASAが開発したプロダクツが登場する2001年宇宙の旅
2001年宇宙の旅に出て来る食事シーン(上)と今の宇宙ステーションでの食事(下)随分違う。
しかしここで1つの疑問が。
昨今デザイン思考という言葉をあちこちで聞くようになってきました。
社会人が通う学校などで、デザイン思考のカリキュラムを学ぶ人も増えていると聞きます。
デザイン思考は、ビジネスにおけるスキルの1つ
デザイナーがデザインをする際に行うプロセスや考え方をビジネスに転用したものがデザイン思考だという認識が一般的です。
明確な体系化がされていないデザイン思考をビジネスのフレームワークとして捉え、実践しようとしているのですが、そこにデザイナー側からのアプローチはなく、教える側も聞く側もビジネスマンのみ。
デザインを知らない人が、デザイン思考を教えて実践できるのだろうか?という疑問があります。
20年前に慶応大学湘南藤沢キャンバス(SFC)ができた時、多くの企業が今までにないこの学部の新規性に注目し、こぞって卒業生を採用した時代がありました。
それは、デザイン思考のカリキュラムと同じような特徴をSFCが持っていたからです。
今後、デザイン思考を授業で扱おうとする大学は今よりもっと増えると思います。
デザイン思考は本当にビジネスに有効なのか?
それはデザイナーが考える思考をビジネスに転用したものなのか?
もしそうなら、デザイン思考におけるデザインとビジネスのボーダーはどこかにあるのだろうか?

現場を知り、深く学習しなければ、今の自分には明確な回答はできません。
ただ、ビジネストレンドとしてのみ扱われているなら、残念な気がします。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター