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何が人々を消費に駆り立てるのか?

ファッション
Mar 24,2021

先日ユニクロ+Jの2021春夏コレクションの新作発売がありましたね。

2020年の秋冬から9年ぶりに復活した+Jですが、

秋冬の販売では、店舗に長蛇の列ができて名古屋店ではトラブルになったり、

オンラインストアもアクセス数がリミットを超えてサーバもダウン。

社会現象にまでなりました。

毎回行列ができる+Jの魅力とはなんなのか??
洋服が売れない、アパレル企業はどこも大赤字で危機的状況、という話題ばかりの昨今、これだけ人々のハートを鷲掴みにするファッションブランドが世の中にまだあったのかとちょっと驚きです。
僕が高校生の時は、パルコが全盛でしたが、セールの当日は毎シーズン長蛇の列ができて、その状況はラフォーレ原宿でも、丸井でも同じでした。
今はセールで並ぶ人は誰もいませんよね。
そもそも転売ヤ―という職業は、当時コンサートチケットを転売するダフ屋しかいなかったw
「ハイ、チケットあるよー」とダミ声で、武道館がある九段下の駅前に立ってるオジサンが、来る人みんなに声をかける商売でした。
今並ぶのは、シュプリームやオフホワイトなどのストリート系ブランドのコラボ商品の発表の時のみでしょうか。
ダフ屋のオジサンは、国籍が違う人たちに変わりました。
GUとキム・ジョーンズのコラボの時も並んでましたね。
今季のラインナップは前回より好きかも。
ジョン・スメドレーのような肌触りのクルーネックセーター
今回の+Jの販売は、ユニクロ側が混雑を予想して、店舗で整理券を発行、メルカリにも先回りして配慮したことで、前回よりはスムースに買えるようになった?のかもしれませんね。
相変わらずオンラインは速攻で売り切れですが、、

前回オンライストアでは在庫なし表示になっていても、店舗で売られていた商品があったことから、自分は今回も新宿の店舗に行ってみました。
その感想は、やっぱりユニクロって凄い!です。
何がスゴイかって色々ありますが、ユニクロの安いフリースを着てる人はダサいっていうイメージは、もうどこにもないのは皆さん周知の通り。
感度があまり高くない人が、安さと機能性を重視して購入するのが、メインの購買動機だったと思います。
今もそういう人はいるでしょうけれど、イネスやルメールのデザインはやっぱり素敵で、高感度な人を誘引する施策が加わり、確実にターゲットを広げることに成功しています。
「ルメール」の名前を知らない人が、「ユニクロ」の商品はデザインがいいねと言って、買いに来る。
インターナショナルな最新トレンドがこのプライスで買えるのです。
そして間違いなく、ルメール自身のブランド「LEMAIRE」には行かないw
デザインがいいことを無意識に受け入れるようになったのか、それとも人々の感度が時代と共に向上して良いデザインじゃないと満足できず、能動的に選択するようになったのか、はたまた過去のファッション馬鹿のように、ハイブランドを買うことへの必要性を見いだせなくなったからなのか、外見の特権を買う感覚が低下したからなのか、その理由はわかりませんが、無理して尖った高い服に投資せずとも、今らしいデザインを普通に着て街を歩くことがデフォルトになりました。
以前、かなりの確率で遭遇した、エラくダサいオジサンの存在は、いまや街でほとんど見かけなくなりましたよね。
ジル・サンダーはドイツ人。以前はシャツやコートを色々買いました。
国内ではオンワードが展開していたジル・サンダー。売られてしまったようです・・・
僕はジル・サンダー自身がデザインしていた頃の「JIL SANDER」で育ちましたが、今やジル・サンダー自身を知らない人であっても、+Jを買いたいのだと思います。
ジル・サンダーだけでなく、J.Wアンダーソン、フィリップ・リム、国内からはアンダーカバー、ガーメンツなどなど、一流のクリエーターとコラボすることにより、ユニクロは徐々に高感度な人も取り込みつつ、ターゲットを広げながら、国内だけでなく世界にも販路を広げてきました。
その中でも世界的な評価を決定的にしたのがジル・サンダーとのコラボ +Jです。
それは、日常の普段着=ダサめ、というカテゴリーが、ジョン・ジェイが提唱するLIFE WERE=カッコいい、にスキーマチェンジした瞬間でした。
他にも佐藤可士和、片山正道、松浦弥太郎というクリエーターたちの起用、
そしてPOPEYE元編集長の木下孝浩の参加により、去年から出版されるようになったブランドカタログの冊子により、ファッション好きだけでなく、カルチャー好きの高感度な人たちにもアプローチする施策を開始、さらなる新しいターゲットの開拓に効果を発揮しつつあると思います。
街には、ユニクロの服を着てセンスが良くなった(ように見える)人たちが増えましたが、
安価な日常着という概念でユニクロを着ている人たちは、このブランドカタログに出てくる人たちの名前、たとえばディータ―・ラムス、大橋歩、柳宗理、ミケーレ・デ・ルッキなどなど、
機能性とプライスを最優先した買物をする人にとっては、知らない人のオンパレードだと思います。
それを面白いと感じるかは人それぞれですが、そこに錦織圭、平野歩夢、フェデラーなど、世界の一流プレーヤーの名前もある。
毎号保存しておきたくなるブランドカタログ冊子。これだけの内容で無料!!
スーパーのチラシのような折り込み広告と、高い意識を切り口にしたカルチャー誌のようなブランドカタログ、一流クリエーターの起用、世界的なスポーツ選手たちのスポンサー、日本でこんなことをやれるのは、唯一ユニクロだけだと思います。
今までハイブランドはチラシなど作らなかったし、デイリーウェアを作るメーカーは著名なクリエーターとは無縁でした。
ハイとロー、大衆と特権(意識の高い人たち)、マジョリティとマイノリティ、その両方を同時に取る戦略はタブーであり、矛盾した行為とみなされていたはず。
それらを可能にして、クロスオーバーした+Jは、やはりすごいと思うわけです。
社会がユニクロに追いついたのか、それともユニクロが社会のニーズをいち早く拾っているのか、とにかくどちらにしても今の社会に必要な、今までよりもより多くの人に能動的に選ばれるジャストなブランドに成長したと思います。
ファッション好き、カルチャー好き、スポーツ好き、機能重視、プライスの魅力、ほとんどのターゲットを押さえていると言えるでしょう。
ここからアートの領域にも、もっと踏み込むはず。
最近、ユニクロの仕掛けてくる戦略に心が奪われっぱなしです。
もうこれさえあれば、スメドレーのポロシャツも必要ないかも。
シャツも前回のように切り返しがなくてよいです。
それまで新館と呼んでいた建物を、メンズ館と呼んで大規模リニューアルを行い、「毎日が新しいファッションの伊勢丹」を具現化した空間に仕立て、グイグイ押してきた大西社長時代の伊勢丹新宿店。
深沢直人にディレクションを依頼し、白山陶器の森正洋、デザイナーに原研哉を起用するなど、グッドデザインを切り口に、プロダクトデザインで企業をけん引し、売上をV字回復させた無印良品。
注文した翌日には商品が届くというコンセプトを掲げ、岡本一宣のデザインによる分厚いカタログを定期発行し、事務機器のプラスから独立して様々な企業とコラボ商品を開発したアスクル。

これらの企業が誰からも支持され、認知やサービスがピークにあった時、次にどんな一手を打ってくるのか、ワクワクして目が離せませんでした。
キラキラしていた。
同じように今ユニクロは過去になく、キラキラしています。
ユニクロの後にワークマンが迫ってきているとも言われますが、そしてジル・サンダー本家は、先日イタリアの企業に買収されてしまったけれど、それとは別に+Jは頑張っていただきたい。
しばらくはユニクロの戦略から目が離せません。
店舗で10円で購入できたこのショッパーはもうありません。。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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