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商業デザインと現代美術の境目は?

クリエーター
Apr 01,2021

緊急事態宣言が明けて、飲食店も9時までの営業になりましたね。

9時までと制限することで、どれだけの効果があるのか不明ですが、夜の繁華街での人出と感染者の増加には密接な関係があると昨日テレビで紹介されていました。

宣言が解かれて、以前より気が緩んできたせいもあるのか、

街にはたくさんの人が出ていて、その数が減少する傾向はありません。

気温が暖かくなったせいで、ずっと我慢していたものが解かれた印象。

提供側もそんな状況に呼応するかのように、

ここへ来て見たい展覧会が同時にいくつか開かれてますね。

僕は最近3つの展覧会に行きましたが、今回はそのうちの1つを紹介しましょう。

現役デザイナーのこんな展示今まで見たことない
いま国立新美術館で開かれている佐藤可士和展です。
去年の9月に開催される予定でしたが、コロナのために延期となり、
今年の2月からGWまで開催されています。
行ってみて、まず最初に大きく感じることは、商業デザインの分野で
過去にこれほどまでに大きな展覧会はあっただろか?ということ。
自分の記憶では、安藤忠雄が会場設計を担当した田中一光の回顧展がありますが、
それもこれほど大規模ではなかったような気がします。
佐藤可士和が、国立新美術館のロゴの作者であるという関係性を差し引いても
こんなにお金をかけた大規模な展示、しかも今現役で活躍している人の展覧会というのは、
過去になかったのではないでしょうか。
(昨年現代美術館でやってたミナペルホネンの展示は行ってないので不明)
ロンドンのテートギャラリーで開催していたダミアン・ハーストの展示を思い出しました。
国立なので、美術館自体の運営は国ですが、
その空間が特定の企業の広告宣伝の場になってしまうわけですからね。
それも過去にあった商品ではなく、今の消費に直結する商品なのですから、
広告効果は計り知れず、当然各企業から多くの支援があったと推測されます。
博報堂退職後、初期のSMAPの仕事で高く評価されました。 膨大なグッズは当時のものか、展示のために再制作しているのか。たぶん後者ではないかと、、
佐藤可士和本人と僕は、少しだけ関わりがあります。
20代後半に、Go Go Threeというバンドを手伝っていたことがありました。
女子たちが歌う60年代のアメリカのガールズグループの曲を演奏するバンドでしたが、
そこで歌を歌っていたのが、可士和の彼女だった、という背景ですw
僕がドラム、ベースは友人の宇治野宗輝で、彼は今現代美術家として活躍しています。
3人でバンドを組んでいたわけではないですが、
宇治野(芸大・ベース)と可士和(多摩美・ギター)、
そして自分(ムサビ・ドラム)と3人で遊びで1度スタジオに入って演奏したこともありました。
彼が弾いていたのは、確か黒いレスポールかな。

その頃は、可士和氏は博報堂にまだ勤務していて、
将来、国立美術館で展覧会を開く人になるとは夢にも思いませんでしたね。
代理店の人だとずっと思っていましたからw
当時、彼が手掛けた森高千里のCMのタイポグラフィを、宇治野氏に依頼していました。

佐藤可士和という人はデザイナーである前に、
戦略家だと思います。
デザインやブランドを語る前に策士であり、
時代を読んで、それを目に見える形で提示することに長けている。
デザイナーという感じはあまりしません。

美術館での展示を見ていても
手掛けた作品を単なるアーカイブとして展示しているのではなく、
背景にあるプロジェクトストーリーを知らない人でも興味が持てる内容、
展示自体を戦略として、また空間を装置として捉えていることを実感します。
プランが練られており、人の心を掴んで動かす策士なのです。
悪い言い方をすると、デザインたらし?笑
楽天やセブン、TSUTAYA、日本を代表する企業ロゴとツールデザイン。 広告デザインからスタートしましたが、いま彼の仕事は生活の中に深く入り込んできています。
展示物のスケールの強弱は、もっとも顕著な例でしょう。
手掛けた企業のロゴを展示するために、なぜこれほどまでに巨大にして見せる必要があるのか?
しかし巨大にすることには意味があるのだと思います。
以前、マクドナルドのサインを巨大化して展示した中村政人の現代美術作品を彷彿とさせますが、

これは、自分の手掛けたロゴの紹介というより、独立したインスタレーションなのです。
ステンレス、キャンバス、タオル地など、企業のロゴごとに素材を変えていることにも
インスタレーション作品としてのこだわりを感じました。
いったいこの制作にいくらかけとんねん!ということも強く感じちゃいます。

本来ロゴは、二次元グラフィックですが、立体作品となり、素材の概念を持ち、
非日常の巨大サイズで目の前に現れた時、人々の心はざわつきます。
普段の日常生活の中で、二次元として手のひらサイズ程度で見慣れている情報が
何百倍ものスケールで目の前に現れれば、誰でも非日常を感じることでしょう。
佐藤可士和の策士としての才能発揮です。
油絵で描かれたUNIQLOの巨大ロゴは、リキテンシュタインか
佐藤可士和のデザインアプローチには、現代美術からの引用があることは
以前から本人も語っていますが、
この展示でもそれがさらに顕著になっていると思います。
通常はアートを展示する美術館での鑑賞という主旨を前提に、
効果的なプレゼンテーションを狙っているのです。

ユニクロのロゴは、特製のキャンバスに油絵で描かれていることからも
ファインアートとしてのアプローチを意識していることは明らかです。
スマップの仕事にも出てきますが
リキテンシュタインを意識しているのは間違いないでしょう。
日常にあるアメコミ漫画の1コマを、横数メートルのキャンバスに拡大したらアートになる。
これは、彼が好きなデュシャンの泉と同じように
コペルニクス的な展開の遊びです。
上は可士和、下がジャッドの作品。ほとんど同じw
左がジャッド(アルミ製)、右が可士和(ステンレス製)
また現代美術を少し知っている人なら、みんなが感じることだと思いますが、
ステンレスの素材を使って立体オブジェとして作られたエイブル&パートナーズのロゴ、
もう見たまんま、あの作品じゃん!と。笑
ドナルド・ジャッドの作品にそっくりなのです。
これにも相当なお金がかかってると思います。。
上が可士和、下がバーバラ・クルーガーの作品
他にもポスターの巨大化により、バーバラ・クルーガーとの類似性が極まったSMAP。
ジェニー・ホルツァーの作品を引用したUTの内装(原宿店のインテリア)。
ジェフ・クーンズのバルーンシリーズの鏡面処理との共通点。
見ているといろんなことを思い出す展示でした。
しかも同じ分野でのパクリではなく、現代美術を商業デザインに引用して、
異なる成果物に昇華していることが、彼の強みだと思います。
左が可士和(原宿のUT)、右がジェニー・ホルツァー
では、デザインと現代美術(アート)との違いはどこにあるのでしょう?
デザインとは、企業が抱える問題をに対して解決策を提示する仕事です。
逆にアートとは、人々が感じていない問題を社会に向けて提起するアクションです。
この2つはどちらもクリエイティブワークであり、似ているように思われがちですが、
根本的に異なるものだと思います。
佐藤可士和は、商業デザインの分野で、企業からの依頼を受けて、
課題を独自の視点で解決し、消費を促すことを生業にしていながら、
展示ではそれらに手を加えて、デザインとアートの境界線をあいまいにして、
見る側に課題を提起しようとしているようです。
そこに、策士としての彼のタクラミを感じますね。

そういう部分で、彼のことをデザイナーだと認識することはあまりありません。
時代の欲望を上手に捉えて、視覚化して提示する才能に長けていると思います。
ロジカルな組み立てと、スカッとするフィニッシュワーク、
単純明快な解決策と切れ味が真骨頂ではないでしょうか。
「カッコいいこと」が好きなのだと思います。
左が可士和(ホンダのN-BOX)、右がジェフ・クーンズ
展示の後半では、グラフィックを起点にその先にある
ブランディングや最近手掛けた空間設計の業務を紹介しています。
彼の策士としての才能の領域がどんどん広がっている。
佐藤可士和の会社、SAMURAIは夫婦を核に、少人数の会社だと思っていましたが、
今では一級建築士も社員として採用し、少し大きくなっているんですね。
建築は外部のパートナーと連携してやってきたが
あまりうまくいかないので社員として迎え入れたと本人が話していましたが、
その気持ちもちょっとわかります。

ブランド戦略は、グラフィック分野のみで可能というものではありません。
クリエイティブな考え方がしっかりとしていれば、
どの領域でも確実な結果を出せるはずです。
ですから、仕事が空間に向かうというのは非常によくわかります。
2次元の視覚体験は、総合的な3次元空間での感覚体験に
含まれているものです。

以前、企業の課題を解決するプロセスには、専業の会社の存在がありました。
リサーチ会社>マーケティング会社>広告代理店>制作プロダクション、
しかし、専業会社の組合せによる取組は、いま壊れつつあると思います。
専業領域を越境し、統合した取組を模索しなければ、
今の時代に出現する課題に応えられなくなりつつあるからです。
もう少し言うと、制作のプロセスが、
思考のデザイン>視覚のデザインの2つに分けられるとすれば、
視覚のデザインをつかさどるクリエーターたちが
思考のデザインから担当しなければ、課題には応えられないのです。
今までの制作プロダクションは、広告代理店が考えたプランを
視覚的に具現化する業務領域、つまり視覚のデザインのみを担っていました。

4大広告メディアが沈み、広告はデジタルに取って代わられ、
リアルな体験価値が強く求められつつある傾向の中、
今までのような専業領域に縛られた取組では成果物の精度は低くなってしまいます。
これからのデザイナーはマーケティングが語れるデザイナーであり、
消費者の視点でモノを見て、自分で作ったストーリーを語れるデザイナーでなければなりません。
自分で立てた戦略を、自分の口で熱く語れなければいけないのです。
リサーチ会社が調査した結果をもとに代理店が考えて決めたストーリーを
視覚化するデザイナーであってはならない。
策士のスキルについて学ばなければいけないことを、
佐藤可士和の展覧会を見ていて強く感じます。
デザイナーではなくても、見れば必ず気づきがある展覧会
5/10までの会期ですから、まだ時間があります。
クリエーターでなくとも、誰でも行けば必ず気づきがあるでしょう。
感染に気を付けて(予約制)、足を運んでみてください。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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