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映画「DRIVE MY CAR」を見て欲しい

映画
Feb 24,2022

村上春樹の小説を読んだことがありますか?

僕は20代の時に、「ノルウェーの森」を読んだのが最初でした。

当時は出版されたばかりの頃で、すごく話題になっていた本です。

読んだときの感想は、なんだかモヤモヤして、どうにも言葉で表現できない、割り切れない気持ちになって、なぜこの小説が世の中でこんなにも話題になるのか?正直よくわかりませんでした。

自分の卒業した大学の先輩でもある村上龍の小説の方が、大学近くの場所がモチーフになっていたこともあって、同じ村上でも、春樹より龍の方が馴染みやすかった。

以後も、村上春樹の小説を読む機会はありましたが、やはりモヤモヤすることが多く、なんとなく遠ざかっていました。

DRIVE MY CARの原作の単行本も買ってしまいました。
村上春樹の小説を映画化した「DRIVE MY CAR」は、カンヌ映画祭で4部門を受賞。
そしてアカデミー賞の前哨戦ともいわれるゴールデングローブ賞では日本映画としては60年ぶりに非英語映画賞を受賞。
そしてアカデミー賞では、日本映画では初となる作品賞を含む4部門にノミネートされていて、海外では高く評価されています。
なのに、日本ではあまり話題にはなっていません。
公開は去年で、公開期間はもう終了していますが、アカデミー賞にノミネートされたことで、今映画館で再上映されています。

映画を見る前は、20代の時に自分が体験した村上春樹の作品の読後感、あのモヤモヤ感のことをすっかり忘れていました。
原作は読んでいませんが、映像化されたら監督も違うわけですから、もちろん違う作品になるだろうと思ってたんです。
それが、、、、、映画を見て、長い間忘れていたあの感覚をすっかり思い出しました。
それだけ映像が文学とシンクロしていた(原作は読んでないですが、村上春樹作品の読後感と映画を見た後に感じたフィーリングはまったく同じです)
冒頭から棒読みのセリフの連続で、それが文字を映像化しているような錯覚に陥ります。
演劇の舞台がモチーフになっており、小説、演劇、映像がクロスオーバーするようなストーリー展開。
3時間という長い映画ですが、まったく飽きさせない、面白い映画でした。
監督の濱口竜介は東大を卒業後に、東京芸大の大学院で映画を学んだという、ユニークな経歴です。
小説と同じく、評価は割れると思いますが、みんなにも見ていただきたい映画。
主題はコミュニケーションに置かれています。
日本人、韓国人、中国人、手話で話す韓国人、色々な属性の人が出てきて、日本語、英語、中国語、韓国語、韓国手話が入り交じる多様なコミュニケーションで物語は進んでいきます。
多国言語に手話が加わって、相手が何を言っているのかわからない状態、しかし言葉を超えたところで、言葉に頼らないコミュニケーションが成立する。
その事実が、皮肉にも言葉を通して深く理解し合っていると思っていた夫婦と対比するカタチで表現されています。

全編、西島秀俊が演じる主人公が乗る赤いSAABが走り回るシーンが出てきます。
今はサーブという会社も車も世の中にはなくなってしまいましたが、SAAB900という車は自分が生まれて初めて買った車と同じ車種で、それもこの映画を見る1つの動機になってます。
車内でカセットテープを聞くシーンがとても重要な意味を持っており、多く出てきますが、飛行機メーカーが作った車だけに、コクピットのような内装で、古いカセットテープを自分もよく聞いていたことを懐かしく思い出しました。
この車を運転することが、映画の主題に大きく関わっています。
愛車のサーブで色々なところを旅するロードムービーでもあります。
SAAB900は自分が最初に買った車。原作と同じコンバーチブルでした
タイトルの「DRIVE MY CAR」は、「ノルウェーの森」と同じく、ビートルズの曲名から取られています。
曲の使用許可が下りなかったために、劇中でこの曲は使われていません。
ビートルズの曲は「私の車を運転してよ」という女子が主人公の歌詞になっています。
多分ジョンが書いた詩でしょう。
性的な隠語です。
主人公は、自分の大切な車を他人に運転させることを嫌がりますが、高い運転技術を持つドライバー、三浦透子演じる「みさき」という女性に徐々に心を開いて、中盤からは自分の車の運転を許すようになります。
ここでも言葉に頼らないコミュニケーションが、自分の車を他人に運転させるというメタファーを使って描かれているのです。
自分が大切にしている特別な車を、会って間もない良く知らない人に運転させることを嫌がる人はきっと多いでしょう。
大切にしているものを他人に委ねるという行為=他人に対して心を開くというテーマが、タイトルに込められていることに映画の後半に気づきます。
パンフレットも買って読み込んでます。
詳細はネタバレになってしまうので言えませんが、
最後のシーンで主人公とみさきの会話の中で、もし他人を理解したいなら自分に向き合うことが必要だというくだりが出てきます。
自分と向き合わない限り、他人との関わりも成立しない。
「DRIVE MY CAR」が比喩しているのは、他者を受け入れること。
ここがとても考えさせられる内容でした。
新宿の歌舞伎町で見たけど、自分が生まれた街とはすっかり変わってしまい、、、
見た後は1週間くらい、映画のことが頭から離れません。
強烈な印象というより、ずっとモヤモヤと残ります。
自分で乗り越えるしかない、それが答えなのでしょうけれど、モヤモヤは止まらないのです。

日本国内でヒットするのは難しいかもしれないけれど、自分にはとても興味深い内容でした。
アカデミー賞取って欲しいなぁ。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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