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お菓子研究家とkigiの幸せな関係

クリエーター
Dec 01,2022

先日の日曜まで代官山でとても良い展示がありました。

よい展示なので一人でも多くの人に伝えたいと思っていたのですが、忙しくてブログを書く時間が取れず、公開が事後になってしまいました。

うーん、これは残念。

kigiの出世作は、ドラフト時代に手掛けたd brosの花瓶でしょうね。
話は少し遡りますが、伏線のお話から始めたいと思います。
自分は4年制の美術大学に通っていました。
20歳、大学2年生の時、仲のよい同級生9人が集まってグループ展を開いた。
専攻もバラバラでしたが、なぜか仲の良かった9人。

それから30年後、メンバーの一人から僕に連絡が。
当時と同じメンバーで、もう1度グループ展をやらないかという話でした。
この話を聞いた時、この素敵な企画は是非実現させたいと思い、当時の9人に声をかけて、30年ぶりに集まってもう1度グループ展を開いた。
会場はうちの会社の3階にしました。
今うちの会社の3階はオフィスになっていますが、当時は現在よりスタッフも少なくて、3階はギャラリーとして運営していたんです。
そこに9人プラスαの同級生たちが集まって、30年ぶりに展覧会を。
なんとも素敵な企画でした。

大学教授、専門学校の先生、グラフィックデザイナー、現代美術家などなど。
現在、みんなそれぞれ得意分野で活躍しています。
その中で、一番知られているのはリリー・フランキーでしょうかね。
クリエイティブではなくて俳優としてなので、一般的に一番知られているでしょう。
彼が一緒に開いたグループ展のメンバーに入っていたことが今となってはオドロキですが。
その9人の中の一人にお菓子研究家の福田里香さんがいます。
僕らは彼女のことを通称リカ姉(リカネェ)と呼んでました。
大学を卒業して新宿高野に就職したあと独立し、今は雑誌「装苑」や朝日新聞などに連載を持ち、書籍も何冊か出版していたり、お菓子ファンの間ではカリスマ的な人気があります。
インスタのフォロワーは現在7.7万人。
そこでも素敵なお菓子をたくさん紹介しています。
発売以来大人気の焼き菓子チージィーポッシュ。
そんなリカ姉が先日、開発に関わったお菓子が発売されました。
それが、富山の洋菓子店から発売されたチージィーポッシュです。
販売はWebで週に2回だけ。
それも毎回、発売されたら1時間くらいで売り切れてしまう。
とても人気の商品なのです。
自分も頑張って、販売時間と同時に購入して家で食べてみたけど、重くなく、さっぱりしていて美味しかった。
チーズのお菓子なので缶にはネズミと猫のイラストが。
自家用で買いましたが、贈答用の紙袋も入っていました。
黄色で四角い缶のパッケージ。
お菓子のテーマがチーズだから黄色、そしてチーズといえばネズミということで、ネズミの絵がパターンとなって全面に描かれている。
それだけではなくて、ネズミの天敵、猫も箱の横に描かれている。
紙袋にも同じパターンで統一されています。

ちょっと可愛いこのパッケージ。
いったいデザイナーは誰だろう?
リカ姉が、パッケージのデザインを依頼したのはkigiでした。
なるほどねぇという感じです。
こうしたセンスも、お菓子を知り尽くしているリカ姉ならでは。
kigiの仕事といえば、代表的なのはAUDREYでしょう。
イチゴの入ったお菓子。
お菓子好きな女子ならきっとご存知だと思います。
うちにも食べて空になったAUDREYの空き缶がありますが、捨てずに保管しています。
このパッケージの仕事でkigiは、著名デザイナーの登竜門である亀倉雄策賞を受賞しました。
そのあと、お菓子業界ではちょっとしたパッケージブームが起き、AUDREYのようなレトロポップなイラストを用いたパッケージへリニューアルするブランドが増えました。
今もそれは続いていると思います。
うちで保管しているオードリーのパッケージ缶。
展覧会では亀倉雄作賞を獲ったオードリーのデザインも。
僕がkigiをはじめて知ったのは、まだ彼らがドラフトに在籍していた頃に手掛けていたプロダクトデザインを発表した頃。
水を入れると自立する、パターンが印刷された折り畳み式の花瓶、これで一躍注目されたのではないでしょうか。
kigiは男女2人組。
2人ともドラフトで一緒に働いていた。
女子の渡邊さんの方が男子より10歳くらい年上です。
女子のハートを掴むAUDREYのラブリーなパッケージは、彼女が描いたイラスト。
そんなkigiの結成10周年の展覧会が、先日まで代官山で開かれていました。
最新作チージィポッシュのデザインも展示されていました。
いい展示でした。
多岐に渡るジャンルの作品がたくさん展示されていて、これで500円とはとても良心的。
代表作AUDREYも、リカ姉のチージィポッシュのパッケージももちろん展示されていました。
それ以外に現代美術のような作品もあって、アートとデザインの間を行く、kigiのスタンスが伝わってくる内容でした。
今このスタンスで活動する人ってあまりいないように思います。
会場には意識の高い?若い人たちがたくさん来ていましたが(特に女子)、彼らにとってkigiはクリエーターのヒーローなのだと思います。
デザインとアートの中間、新しいクリエーションの在り方を模索して活動するという立ち位置、ここがとても重要なのだという気がしました。
商業デザインだけではなく、アートとしての表現も追求するという点が、みんなの気持ちを掴んでいるのじゃないだろか。
そういう意味では、インディペンデントでいることが素敵という解釈もできる。
会場も美術館ではない、代官山のヒルサイドテラスがちょうどよい。
勝手にそう思いました。
商業デザインではないアート作品「時の標本」
パッケージデザイン、アパレル、ブランディング、ロゴ、広告、装丁、プロダクトデザイン。
手掛けている領域はとても広いのですが、どれを取ってもキレがある。
今の時代を切り取るセンスを感じます。
それは彼らが創るアート作品にも顕著でした。
ドローイングという手法、昔から変わらないクリエーターのベーシックな手法から作品が生み出されていることもわかって、そこはとても良いことだなと思いました。
美術館とは異なる空間。500円で充実した展示内容。
展示を見ていて、僕はもう1つ別のことも考えていました。
こういうセンス、言語化できない感性のアウトプットはどこから来るのだろう?
時代にジャストで合わせられる表現を身に付けるのは、知識習得や教育からだろうか?
優秀な人っていつから優秀なんだろう?と。
生まれた時から優秀なのだろうか?
男子の植原さんは美大を卒業していますが、女子の渡邊さんは国公立大学の出身です。
美術の専門教育を受けてなくても、こういう創作が可能だということ。
いえ、専門教育を受けていないからこそできるのではないか?とも感じます。
クリエイティブへの情熱、追求、好きこそモノの上手なれ。

60歳を超えてもこんなに瑞々しい表現ができるっていうことに驚きを感じます。
クリエイティブは生き方なんだなぁということを感じずにはいられない。
そんなことを感じていました。
会社の近くの文具店「アコテ」のロゴも彼らだと知ってオドロキ。
リカ姉もお菓子に並々ならぬ情熱を注いでいるはず。
それに応えるkigiもそう。
クリエイティブへの情熱が、人とのつながりを生み、シナジーとなって、素敵なアウトプットを作り出す。
自分もそうでありたいなぁと感じる展覧会でした。

もっと早く伝えたかったなぁと反省。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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