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人に教えることは、自分が学ぶこと

私の履歴書
Jul 13,2023

今大学で学生に週に1回、デザインを教えている。

以前にも談話室で書いたが、普段の仕事とまったく異なるこの体験は自分にとって新鮮だ。

もちろん、教えることはとても大変だ。

特に仕事をしながら、その時間を毎週確保すことは、とても負荷がかかる。

しかし半面、様々な気づきもある。

自分が教えているように感じるが、実は教えられているのではないか?と思うことすらある。

きっとそれは気のせいではないだろう。

1時間半50人に対して、1人で話す経験は貴重だ
自分も大学生の時そうだったが、学生は講義室の後ろに座るw
人に教えることの一番のメリットは、教える人自身が成長できること、という内容を書籍などで目にする。
確かに、誰かに何かを教えるためには、伝えたい事柄=自分が行ってきたことを整理して再定義する必要に迫られる。
視座を1段階上げて、俯瞰的に自分のやっていることを見直し、重要なポイントを見つけ、結論付けた上で、理解しやすいように構成を考え、示さなければならない。
普段仕事をしていて、このプロセスは絶対に外せないというワークがある。
そのほとんどは無意識のうちに行っているが、なぜそれが必要なのかを突き詰め、考え方を言葉で明文化することが必要なのだ。
大切なポイントだけを絞り、わかりやすい言葉で話すことが必要だ。
最初、自分が一番自覚的になったのはその点だった。
業務で、とても重要なことをいくつかやっていても、それを整理して明確に文章化する機会は普段ほとんどない。
しかしながら、そのプロセスを踏まずに、たとえば同じ会社の後輩にその業務のやり方について話して理解を促すことはかなり難しいだろう。
自分が思っている以上に相手には伝わらない。
特に経験の浅いスタッフに対しては、言葉そのものすら理解できないかもしれない。
伝え方の工夫は必要だが、無意識に行っていることを明文化して定義することに意味がある。
これは決して誰かに教えるためだけでなく、自分にとってとても有益なことだと思う。
教える必要がなくとも、ビジネスパーソンなら全員1度自分の仕事のやり方を書き出してみた方がいい。
自分がなんとなく行っていることに対し、自覚的になれるだけでなく、どのような視点・思考が必要なのか、何のスキルが大切なのかわかるはずだ。
特に自分の得意不得意な分野の理解、タスク分解による効率的な進め方には有効だと思う。
人に教えるためというお題でこのことに取り組んだが、その作業を通して、どれだけ自分が普段意識せずクリエイティブワークに携わっているのか、理解できたことは大きい。
バラバラに脈略なくやっているようで、実はそこにセオリーがある。
自分だけのルールがあることに気づく。
もちろん、自分が現場で得たことを学生たちに話そうと決めたために気づけたことだ。
自分たちの身近なところにヒントはたくさんある。
多くの人は大学生の年齢の時に、その後の人生の発芽がある。
先人たちはそのことを知っているし、経験者たちの話は深い。
もう少し正確に言うと、自分は何も教えてなどいない。
教員免許は持っているが、アカデミックな歴史や学術的なことなど教えるつもりはないし、それを授業でやって欲しいと言われてもできないだろう。
現場で得た自分の経験を勝手に語っているだけであり、答えを指し示しているわけではない。
クリエイティブを志した先輩の経験談に過ぎないのだ。
もちろん、経験から導き出した自分の考え方は述べる。
しなしながら、それは前述した通り、「同じクリエイティブを目指した先輩の経験談」であり、学術書に書かれている内容ではない。
すべてが現場で葛藤して導き出した「松本オリジナル」に過ぎない。
参考程度の話なのだ。
ただ葛藤して導き出したからこそ、リアリティがあるとは思っている。
教科書に出てくる回答ではないが、真理はあると思う。
世界史の先生のように、自分が見てもいない、体験者にインタビューしたわけでもないことを語るのではなく、自分が実際に体験して導き出したことを伝えるのだから。
そのような話をできるだけたくさん学生たちにしたい。
個人的にそもそも大学とは、何かをしてくれる場ではない。
それを利用して自分たちが何かをする場所だと思っている。
クリエイティブの先輩の話を聞いて、それを利用して、盗んで、自分たちで何かに活かして欲しい。
それが大学の課題制作であってもいいし、社会に出て5年後であってもいい。
だから自分は先生ではない。
先輩と呼んでくれと毎回学生たちには伝えているのだ。
学生たちも自分のことを「松本パイセン」と呼んでくれている 笑
20歳前後で没頭した経験が、その後の自分の人生を決める。
やりたいことを職業にしなくてもよい。でもそれはできるだけ続けた方がいい。窮地に陥った時の自分をきっと助けてくれるからだ。何より自分の経験がそれを教えてくれた。
授業は難しい。
できるだけコミュニケーションを取りたいが、いつも工夫が必要だ。
一方的ではなく、お互いが語り合うような授業にするにはどうすればいいだろうか。
好きなことを述べてもらって集計したり、デザインのことでも、松本個人のことでも、何でも構わないから質問を書いてもらってそれらに毎回すべて回答したり、授業中に挙手で多数決を取ったり、3択クイズを出したり、「参加してもらうために」色々なことを試している。
このあいだは、椎名林檎やiriの話をして、講義室で大きな音で彼らの楽曲を流した 。
たぶん、その時廊下を歩いていた人たちは何だろうか?と思ったに違いない。
80年代にアメリカで発表された「Just the Two of Us」がオリジナルだが、HIP HOP以降の90年代には、そのコード進行がスチャダラの「今夜はブギーバック」、椎名林檎の「丸の内サディスティック」などに流用され(通称丸サ進行)、2023年の今はYOASOBIやiriも引用し、J POPで何十曲も丸サ進行を用いた曲がヒットしているという話。



https://www.nippon.com/ja/japan-topics/g01096/

これをクリエイティブのメタファーで使った。
楽曲を書いたアーティストたちは、書いた曲がたまたま「Just the Two of Us」のコード進行と同じになってしまったのではない。
メロウで浮遊感のあるコードとして確信的にそのコード進行を使っているのだと思う。
そのコードを使えれば、どのような効果があるのかもちろん熟知している。
悲しい歌にはマイナーコードが使われるように、作り手は相手の特定な感情を引き出すために、巧みにコードを組み合わせる。
じゃグラフィックデザインではどうか?
コードをフォントに置き換えたら似てないだろうか?
何かの効果を生み出したい時に、用いるべき適切なコードがある。
それには定義があるという話。
作曲家がコードを選ぶように、デザイナーは目的に応じて最大の効果を生むフォントを選ぶスキルがなければならない。
そのためにプロとして、フォントについて最低限知っておかねばならない。
そのことを伝えたいがために、聞く側が興味を持つであろう分野に置き換えて、iriの曲をデカい音で講義室で流したのだった。
そんなことをする先生はきっといないだろうから、ビックリしたかもしれない。
バラバラの事象を分析して定義すること、コードもフォントも過去にヒントがある、そして時代のトレンドで変化するという点も一緒に押さえて欲しいということも合わせて伝えた。
自分が通う校舎。大学というのは通り過ぎていく場所だが、思い出すことも多い原点でもある。
学生たちと飲みに行くのはとても楽しい。
去年は5回くらい複数の学生と飲みに行ったが、どれも心から楽しいと感じる会だった。
誇張でも何でもなく、普段こんなに楽しいことってあるのだろうか?というくらい楽しい時間だ。
なぜ楽しいのだろう?
理由を考えてみたが、社会に出ていない彼らはいい意味でも悪い意味でもピュアだというのがまず前提としてある。
実に素直だったり、時には物事を知らなかったり、上昇志向が前面に出ていたり、人それぞれだが、みんな不安を持ちつつも頑張ろうとしているのが総じて伝わってくるのはとても気持ちがいい。
自分の心が洗われる。
案件や経営で苦しい想いをしている閉塞感からも解いてくれて、自分も頑張ろうと前を向かせてくれる。
仕事ではないので損得が伴わない関係、でも友達とも違う不思議な感覚がある。
親戚のオジサンみたいな感覚にも近いだろうか? 笑
自分は前述の通り、先生と生徒という感覚は持っていないのだから。
楽しいと感じる一番大きな理由は、彼らと話して多くのことを彼らから学べるという点だろう。
今を生きる彼らの視点を聞くことに、とても刺激を受ける。
それは自分が大学生の時、そうそうこういう奴いたよなー、という感覚とは異なる。
そうした感覚はほぼゼロに近い。
自分は(自分たちは)大学生の時、本当に社会を知らなかった。
どこかにある桃源郷を夢見ている、クリエイティブすらあまり知らない何もできない学生だった。
遊びの先に桃源郷があるかもという、幸せな勘違いをさせてくれる環境にいた。
今の学生の方が、もっとシビアで、社会を知っている。
コロナのせいもあるが、どちらかと言えば一人ひとりが個で存在していて、集団でのつながりが薄いという意味では、大学が社会人予備校になってしまってる感もある。
いずれにせよ、彼らと関わりを持つことは、とても楽しい。
彼らが生きようとするリアリティを感じることができるし、そんな彼らをサポートしてあげることが自分の使命なのだと常に思って向き合っている。
そのため、伝えたいことがありすぎて、ついつい饒舌になり、スライドの枚数が毎回100ページを超えてしまう。

今年も、もっともっと学生たちとコミュニケーションをして、彼らから色々な話を聞いてみたい。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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