談話室松本をリニューアルしました。
これまでの談話室松本はこちらからチェックできます

  1. top
  2. 仕事
  3. あの宣伝会議の仕事 後半

あの宣伝会議の仕事 後半

仕事
Apr 13,2017

前回のブログ記事の続きです。

1954年の創刊から50年以上続く雑誌「宣伝会議」

3社コンペでこの仕事をdigで受注してから、2年目に入りました。

今回は最初の提案で何をしたか?それを少しだけ説明したいと思います。

顔となる雑誌タイトルもリニューアルしました
「宣伝会議」
この雑誌は大学生の時からよく耳にしていた雑誌名でした。
その理由は内容だけでなく、作り手に超一流の大御所の先生たちが複数関わっていたからです。
表紙を取ってもそれは明らかでした。
アートディレクションは田中一光さん、イラストは和田誠さんの時代がありました。
夢のような組み合わせ・・・
コンペでうちのデザインを採用していただきましたが、表紙はギリギリまで決まりませんでした。

まず最初に、それまで表紙のテーマだった統計データのインフォグラフィックスはやめたい。
じゃ何にする??
課題で先方からもらっていた、無機質にならないビジネス専門誌というお題をそのまま解釈すれば、イラストなどが妥当でしょう。
ビジネス系の単行本にもよく見られる、今っぽい線画のイラストにするのはどうか?という案もスタッフからは出ていました。
しかしそれだけだとステータス感は出ない、ビジネスの単行本や他誌との差別化にもならない・・・
田中一光&和田誠という黄金コンビによる以前の表紙
リニューアルした本誌。友人の現代美術家・宇治野宗輝氏を起用。
現代美術家の宮島達雄さんの作品を起用した表紙
考えついたのは現代美術でした。
現代美術の多くは、世の中にある見えない欲望を浮き彫りにして視覚化し、現代に生きる人々の共通感覚に訴えるものです。
その欲望や共通感覚をテーマにした現代美術の作品を表紙に起用しようと考えました。
人々の欲望を揺さぶり、消費を煽るのが広告です。
現代美術を表紙に採用している月刊誌は他にない、というのも理由の1つでした。
ビジネスと現代美術、まったく異なるように思いますが、根底でこの2つには多くの共通点を抱えているのです。
1:「光朝」そのまま、2:墨たまりの加工、3:ウロコの削除、4:フトコロの調整
「宣伝会議」という雑誌の書体も慎重に検討しました。
田中一光さんがアートディレクションを手掛けていた時代、彼が作ったモリサワの書体「光朝」をタイトルに使用していた時期があります。
コンペに呼ばれた時点で、雑誌名の書体は既に「光朝」ではありませんでしたが、これを変更するに当たって僕たちはもう1度「光朝」の時代のニュアンスに戻すことを検討しました。
「光朝」は和文の明朝体で、欧文のDidotのような書体。
横棒が極めて細いのが特徴です。
視認性を上げるために横棒を太くしながら、アナログ感のニュアンスを出しながら、視覚的に引っかかるウロコを取り去り、「宣」のフトコロを広くするなど全体を調整しました。
また特集見出しを立たせるために、雑誌名は小さめに抑え、シンメトリーを基本にレイアウトしています。
まず全体のラフを描いて編集部の承認を取り、
ラフを手描きで清書。街にあふれる広告メディアをテーマに。
フォーマットに沿って文字要素を整理。この時点で見出しが横組に変更
線画と文字要素を組み合わせた状態
色を加えて完成
去年の正月号では、このデザインルールを元に、ロンドン在住のイラストレーター秋山貴代さんに、表紙イラストの描き起こしを依頼しました。
この表紙を提出したとき、編集部含め先方社内がザワついたとスタッフから聞きました。
ザワついた理由がわかりませんでしたが、今年の新年号の表紙も昨年と同じにして欲しい、という要望が来たので、良い方向でザワついたのだと解釈したいと思いますw

細かいパーツでは、Webで使うようなアイコンを1冊の中に記事種別で各所に設置し、Web GUIのようなインターフェイスを試みています。
小さいですが、これは雑誌に統一感をもたらし、検索性を高める上でも重要な意味があります。
準備時間はほとんどなく、担当した初号は、通常と同じ制作期間内で、コンセプトを決めながら全ページ新規デザインを起こすという、タイトな仕事でもありました。
雑誌の性質上、こちらでコントロールできないタイアップのページもあって、全体に統一性を持たせることもなかなか難しいです。
次回リニューアルするなら、もう少し時間をかけてもっとよいものにしたいですね。
アイコンは2種類。記事種別とコーナー別で組み合わせて使用する。
月刊誌は毎月内容が変わり(当たり前ですが)、その内容を受けてからデザインに着手するので、時間がいつもほとんどありません。
その短い時間の中で、どれだけチャレンジできるかというのが勝負の仕事なのです。
チャレンジするか、しないかは編集部側が決めるものではありません。
決めるのは僕たちです。
だからチャレンジすることをやめれば、それはそれまでなのです。
レベルは自分で決めるものです。
これは以前、このブログで紹介したThink!の仕事で何十回も行ってきたこと。
何をすべきか、何にこだわるべきか、
200ページを1週間くらいでデザインしていたThink!での訓練が、大いに役立っていると思います。
Think!の記事はこちらかご覧ください。

http://blog.10-1000.jp/cat35/001284.html
http://blog.10-1000.jp/cat35/001287.html


新年号の表紙をゼロから作っていくプロセスも、時間がないながらも楽しい仕事でした。
仕事は、チャレンジをあきらめたら本当にいけません。
あとに残るのは、ただの作業とやらされ感だけです。
学べるかどうか、楽しくするかどうか、自分が成長できるかどうか、すべてを決めるのは自分自身なのです。

皆さんも書店で「宣伝会議」を見つけたら、是非手に取ってみてください。 

前半のその1の記事はこちらから。

http://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2017/01/post-4.html


SHARE THIS STORY

Recent Entry

松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター