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アパレルブランド 年末の攻防戦

ファッション
Dec 14,2017

最近街を歩いていると、同じような格好をしている女子たちを見かけます。
オーバーサイズの太いパンツにコンバースのハイカット、ケーブル編みのタートルニット、ノーカラーのコートを着て、極め付けは首元にジョンストンズのカシミアマフラー。
ライフタイル好き、エフォートレスにちょいモードを加えた女子たちですね。

さらにトレンド意識が高いと、J&M Davidsonのタコバックを合わせたり。
彼女たちは以前のように、インポートブランドでアイテムを揃えたりはもちろんしていないでしょう。(ZARAやH&Mはあると思いますが)

感度の高いセレクトショップで、適正価格で賢く欲しいモノを買っているはず。
そのセレクトショップは、今まさに年末商戦。

今年はちょっと感じることがあったので書きたいと思います。

黒と金の箔押し。インビテーションも毎回お金がかかってます。
もうすぐ年末セールの時期で、早いお店だと既に一部でセールが始まっているところもあると思います。
アパレルにとって、クリスマス直前のこの時期はもっとも売上が取れる期間。
そんな年末セールが始まる手前のこの時期に、久しぶりにワクワクする体験をしました。
買物でワクワクするってあんまりないのですが、久しぶりの感覚ですね。

特に他言無用とは言われてないので、ここで書いちゃいますが、ユナイテッドアローズの販売戦略についてコメントしたいと思います。
ブランド創立の頃からUAには、VIPセールというシステムがありました。
ある一定金額を購入したお客様には、セールより前に割引価格で商品を販売するというものです。
このシステムは20年以上前からありましたが、VIPセールのハガキが送られてきて店舗に行っても、あまりワクワクした記憶はありません。
それが今年に限ってはワクワクして、UAってやっぱりスゴいなあと感心。

その理由の1つは、以前よりVIPセールの対象商品が広がったこと。
以前はそんなに多くの商品が対象ではなく、しかもプライスも40%OFFでセールより少し高かったような(顧客ステージに応じて割引率は変化)
最近では徐々に対象商品が多くなり、VIPセール中は本セールにかからない商品まで半額で購入できるようになってきました。
VIPの人だけがこの期間、ほとんどの商品を半額で買えるのです。
今までVIPとか言われても、セール品をちょっと早く購入出来るだけという感覚があって、インセンティブ効果はそれほど実感できなかったのですけど。
VIPというカテゴリーの顧客に対して、高いインセンティブを実感できるように一般と差別化したプロモーションを行うことは、優良顧客の囲い込みという点において、間違いなく正しい戦略だと思います。
VIPへのインセンティブが明確であればあるほど、差があればあるほど、そのブランドのファンでいることを継続しようという気持ちになるものです。
サイトを閲覧しているだけで、自動的にVIPセールの表示が出てくる。
セール対象外の商品まで半額で購入できるということ、それ以外にも有効な戦略があります。
まず、VIPのセールはサイトと店舗で同時開催。
サイトでもほとんどの商品が割引対象になっています。
デザイン的にはUAのように、送られてくるカードのデザインとサイトのフォントを揃えておくことはマストでしょうね。
しかし、サイトにはない多くの対象商品が店舗で購入できるので、店舗で探した方がもっとワクワクする体験ができます。
社長が替わった伊勢丹でも例年になく、VIPへの割引を早くに開始していますが、サイトとの連動はなく、売場で購入する際にも紙に書いた顧客リストと名前を照らし合わせるという非常にアナログ的なことをやっていて、早くIT化したUAとの差は歴然です。

UAではVIPにもいくつかランクがあって、購入金額に応じて割引率が異なるのですが、サイトでも同様に、ログインするとその人のステージに合った割引金額が表示されるようになっています。
店でもサイトでも、VIPセールの同じ体験ができるというのは、オムニチャネルの技術が進んでいることを意味しています。
VIPセールの期間、この効果は自分にとって非常に高い。
サイトで見て店で試着する、店で試着してサイトで購入するというアクションは、ますます増えることでしょう。
今はまだそれぞれの実店舗でしか買えない対象商品がたくさんありますが、今後サイトにさらに多くの商品を導入して、ECを活性化させる戦略を取ってくるのは間違いないと思います。
そうしたら、店舗に誰も行かなくなってしまうのではないか・・・
そんな危惧も感じますが。
段ボールにも印字してお金かかってますよ。
パッケージにも金と銀でUAマークの箔押しが
もう1つはお歳暮です。
ユナイテッドアローズのVIPには、お歳暮が送られてくるのです。
日本に古くからあったはずの年末にお歳暮を贈るという慣習は、現代では消えつつありますが、それをあえて物販の企業が行うというのは悪くないセンスですよね。
これも顧客の囲い込みという点では有効じゃないでしょうか。
UAのお歳暮については、以前にもこのブログで紹介しましたが、今年はお煎餅の詰め合わせ。
しかもUAオリジナルの味が入ってます。
モノを買ってお歳暮が送られてくるのは、自分が知っている限りでは伊勢丹とUA、あとは不動産屋くらいかなぁ。
パッケージのデザインが美しい
中身は味ごとに個包装されたお煎餅です。
UAオリジナルの味も作ってあって凝ってますよ。
効果を数値化することはむずかしいと思いますが、こうした1つ1つの戦略がそのブランドのファンを継続するきっかけ作りに寄与していることは間違いないでしょう。
ただ洋服を買うだけで、こんなにワクワクする体験をしたのは久しぶりで、そういう顧客体験を提供するのはブランド側の戦略ですから、やっぱりUAって凄いなあと思います。
顧客の心をつかむというのは少なくとも2種類あって、1つは今の気分にジャストな企画や商品開発、もう1つが今回のような顧客へのサービス提供による囲い込みの施策だと思います。

オムニチャネルが進む中で、店舗そのものや店舗での接客が見直されようとしている今、ITを活用した接客とはどういうあるべきか?今後も変わっていくでしょう。
システムが自動的に行える部分は大きいと思いますが、最後は人と人のような気がします。
お気に入りの販売員がWeb上で接客してくれる日も近いのではないでしょうか。
ここ数年、アパレルは元気がないと言われていますが、僕は面白いなあと久しぶりに感じる体験ができました。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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