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「楳図かずお」と父「松本正彦」の接点

クリエーター
Mar 17,2022

このブログで何度か書いているので、もう皆さん、僕の父親が漫画家だったことはご存知かもしれませんね。

僕が生まれる前までは、それなりに知られる漫画家でした。

宮崎駿さんも父のファンだそうです。

スタジオジブリに勤務する知人から、会議の際にうちの父の話を社員みんなにしていたと聞きました。

なんともインパクトのあるスケボーです。
さいとう・たかをさん、辰巳ヨシヒロさん、そして父の3人が合宿生活を送る中で生まれた、それまでの手塚漫画にはない表現であった「駒画」は、名称を「劇画」に変えて、さいとうさんの描くゴルゴ13などの作品を通して全国に広がりました。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2021/12/-2.html

そして当時さいとうさんと父が審査員を務めた新人作家コンクールの中で見出した作家、のちに野球漫画で知られる水島新司さんもまた、さいとうさんや父と同じ出版社で活躍した仲間でした。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2022/01/post-118.html

さいとうさん、辰巳さん、そして水島さんも、もうこの世にはいなくなってしまいました。
とても残念なことです。
同じ出版社で活躍した父を含む劇画工房のメンバー8人は、今1名しか残っていません。
父と同じ時期に、同じ日の丸文庫で活躍した時代物で知られる漫画家 平田弘史さんも先日亡くなってしまいましたね。
地上52階で見る楳図ワールドのインスタレーション
父が亡くなった後、父の作品を整理している時に、意外なものを見つけました。
大阪、東京の2か所でさいとうさん、辰巳さんと同じアパートで生活していた時に、同じ劇画工房のメンバーとして多くの作品を共に描いていたのは知っていましたが、それ以外にも大阪時代に一緒に描いていた漫画家の名前を発見。
え?

それが楳図かずおさんでした。
当時の書籍を見ると、さいとう、辰巳、楳図、松本の4人で1つの作品をリレー形式で描いているのです。(「第9の部屋」鍵2号/ 三島書房 1957年)
1つのストーリーを4人でバトンを渡しながら描いていくというもので、当時こうした試みは他の単行本でも見られるので珍しいことではなかったようです。
しかし、あの恐怖マンガで知られる楳図さんが、父と一緒に描いているのは意外でした。
駒画の父は別として、、、劇画のさいとうさん&辰巳さん、恐怖マンガの楳図さん、なんだかスゴイ組み合わせ。
これには本当に驚きました。
父が亡くなった時に、楳図さんから文章をいただいています。
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松本正彦さんがお亡くなりになったとのこと残念に思います。
そういえば「鍵」の執筆にあたり、打合せで出版社に行った折、2名ほどの方がいらっしゃって、その一人が松本さんだったことを覚えています。
他の漫画家とは違い、大変におだやかで「安心できる方もいるんだ」と何かと気の休まらない中でホッとしたことが思い返されます。
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86歳で新作を描く楳図さんにはスゴイパワーを感じます。
楳図さんと父親にも接点があった。
そんなこともあり、先日六本木で開催の「楳図かずお大美術展」を見てきました。
この展覧会で、現在86歳の楳図さんは、27年ぶりに新作を発表しています。
内容は、、、、スゴイの一言で、間違いなく現代美術ですね。
マンガと呼べるのか?という内容でした。
86歳でこんなエネルギーを持っていることにもオドロキです。
もう間違いなく、マンガの域を超えた現代美術です。
楳図さんが、父と一緒に作品を描いていたなんて、父がいなくなるまでまったく知りませんでした。
それを知らないまま、小学校の頃に楳図さんの作品を僕も読んでいた。
ただ松本家ではマンガを読むことは禁止されていたので、友達の家や遠足、床屋で順番を待っている時にしかマンガは読めない状況でした。
ですから、触れられた楳図作品も少ないです。
そんな数少ない体験の中でも「漂流教室」は、当時小学生の自分に強い印象を与えました。
衝撃的な内容で、、、、。

マンガ禁止令の期限が過ぎて、大人になってから「漂流教室」をはじめ、楳図さんの単行本を何冊か買って読んでいます。
ヘビ少女、猫目小僧、おろち(一番好き)、
どの作品を読んでも感じるのは、まったく古くないということ。
50年前に描かれた作品だとは思えません。
最近ではKADOKAWAから出版された「こわい本」シリーズを、去年の誕生日にリンタロからもらったので読んでいますが、お手頃価格で濃い内容がおススメです。

楳図さんの作品は、そのほとんどが小学館から出版されていて、「UMEZZ PERFECTION!シリーズ」が知られています。
祖父江慎さんのアートディレクションによる、物凄く凝った装丁。
これはデザイナーなら目が離せない、必ずチェックしておくべき装丁でしょう。
紙質、特殊加工、色、あちこちに仕掛けがあります。
その中の1つに「ねがい」という作品があります。
これは僕が小学校の時に読んだ「漂流教室」の最終巻の最後に、おまけで収録されていた短編です。
あまりに衝撃的で怖くて、今でもはっきりと覚えています。

もうあれから40年くらい経っていますが、買ってこの作品も読んでみました。
まったく変わってない衝撃。
ただ怖いだけでなく、泣けてくる名作です。
友達のいない小学生のヒトシくん。
主人公は、友達が1人もいない小学生の等くんです。
ある日、ゴミ捨て場で廃材を見つけた等くんは、その木で人形を作ることを思いつきます。
木を削り、自分で作った人形に「モクメ」という名前をつけ、隣に座らせて一緒に勉強をする毎日。
その気味の悪い見た目に、両親は捨ててきなさいと叱りますが、友達なんかいなくてもモクメがいれば寂しくなんかないと等くんは反抗します。
気味の悪いモクメを見つけたお母さん
身の回りの何かに自分の願い事を毎日念じて、そのモノが壊れた時、念じた願いが叶うという話をクラスメイトから聞いた等くんは、勉強机のスタンドライトに向かって毎日「モクメ」が人と同じように動けるようになることを祈るようになります。
そんなある日、女の子が転校生として等くんのクラスにやってくる。
その子と打ち解けて、一緒に遊ぶようになった等くんは、次第にモクメの存在を邪魔に感じるようになっていきます。
その結果、遠くのビル建設予定地まで行って、そこにモクメを捨ててしまう。
そこから家に帰ると、机の上のスタンドライトがバラバラになっていることを発見します。
その夜、物音で起きてしまった等くんが見たのは、捨てたはずのモクメが外から窓を叩く姿・・・・
怖くなった等くんは両親の布団にもぐり込むのでした。
翌日学校から帰ると、机の上には、夜まで帰りません、留守番をお願いという両親からの手紙。
夜になって降り出した雨の中、2階にある自分の勉強部屋に行くと、そこには割れた窓ガラスと勉強机の椅子に座ったモクメが、。、、、。
ヒトシくんを勉強部屋で待っていたのはモクメでした
等くんを見たモクメは立ち上がり、釘の歯で等くんの腕に嚙みついできます。
恐ろしさと、血が噴き出す痛さで泣き出す等くん。
泣いて謝る等くんの姿を見たモクメは、嚙むことを止めます。
願いが叶い、動き出したモクメはヒトシくんを襲ってきます。
しかし、その隙に椅子を掴むと、モクメを自分の手で叩き壊してしまう。
「許してモクメ」
「だますつもりじゃなかったんだ。ホントなんだ。お前のことが好きだった!」
「でももうお前とは友達になれないんだ。お前がいると他の人と友達になれないんだ」
「ごめんね、ごめんね。お前はぼくが作ったんだ。」


なんという読後感・・・・・
これは当時の小学生の自分にとって、トラウマになりました。
漂流教室の最終話の余ったページに、おまけ的な収録にも関わらず、漂流教室がかすんでしまうくらい怖かった。
そして切なかった。
今もはっきりと覚えています。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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