談話室松本をリニューアルしました。
これまでの談話室松本はこちらからチェックできます

  1. top
  2. 映画
  3. 小津安二郎とヴェンダース

小津安二郎とヴェンダース

映画
Feb 01,2024

「パリ、テキサス」という映画をご存知だろうか?

ドイツ人の監督ヴィム・ヴェンダースが1984年に制作し、カンヌでパルムドールを受賞した作品だ。

タイトル名を聞いた時、フランスのパリとアメリカのテキサスを結ぶ映画かと思ったが、実はアメリカのテキサス州にパリという町が実在することを後で知った。

その町の名前がタイトルになってはいるが、映画には出てこない。

公開当時はロードムービーの傑作とされ、ライ・クーダーの音楽や、ナスターシャ・キンスキーの美しさも相まって、カルチャー好きの間ではマストムービーとされて話題になった。

自分もその例に漏れず、夢中になって観て、友人と語り合った一人だ。

ハリウッド映画のように、何か事件が起きるわけでもなく、淡々と物語は進みラストシーンに至る。

印象的なラスト、そして音楽と映像の美しさは、今も記憶に残っている映画だ。

名匠ヴィム・ヴェンダースが2023年に監督した「PERFECT DAYS」
単館系の映画を上映する映画館がなくなった今、それに代わる配給手段はサブスクだが、今の20代前半の若い子たちの一部の間で80~90年代に公開されたこうした単館系のカルチャー映画がブームになっているようだ。
ヴィム・ヴェンダース以外でも、ジム・ジャームッシュ、レオス・カラックス、ウォン・カーウァイあたりがそうだろうか。
サブスクで見られる今のインディーズなドラマでも大抵の場合何か事件が起きるが、80年代の単館系カルチャー映画の大半は何も起きない。
非日常なストーリーではなく、日常から人間の内面を深く掘り下げるものが多い。
そうした部類に該当する「パリ、テキサス」のような映画を見て、彼らは何を感じるのだろうか。
果たして、最後まで退屈せずに見ることができるだろうか?とも思う。
同じくヴィム・ヴェンダースが監督を務めて話題となった「ベルリン天使の詩」も同様だろう。
それだけ社会は大きく変化し、インディペンデントなものが成立しにくい時代になったのか
いや、コスパや効率ばかりが求められる中で、映画製作は大衆を集客できるアメリカンエンターテイメントのみが生き残り、インディペンデントという非商業的なカテゴリーは存在しなくなってしまったのかもしれない。
ナスターシャ・キンスキーを一躍スターにした映画でもある。
さて前置きが長くなったが、正月に何十年ぶりにヴェンダースの映画を「映画館」で見た。
日本の渋谷を舞台にして撮影された「PERFECT DAYS」だ。
ずっと前から、渋谷のトイレを題材にして、ヴェンダースが映画を撮っているというのは知っていた。
渋谷区内にある17箇所の公共トイレが、安藤忠雄、隈研吾など著名な建築家たちの手によって(一部建築家以外も参加)リニューアルされ、「THE TOKYO TOILET プロジェクト」としてサイトも立ち上がり、渋谷区長も大々的にその活動を宣伝していた。
ただ企画に電通の名前が入っていて、区長にいくら世界的に著名な監督が渋谷に来たと言われても(言われれば言われるほど)、お金の匂いを感じてなんだか胡散臭い、代理店のしそうなことだと思っていたことは否めない。(ちなみに渋谷区長は元博報堂)
今回の映画は毎日を淡々と過ごすトイレ清掃員の日常。
しかし、それを良い意味で裏切られた。
結論から言ってしまうと、とても素晴らしい映画だった。
はっきり言うと「パリ、テキサス」よりも良いと思う。
ヴェンダースを一躍有名にしたロードムービーの要素もそこには健在だし、劇中では相変わらず事件は何も起きないが、描かれている人間への共感は「パリ、テキサス」よりもずっと深い。
撮影場所が日本、しかも東京のため、フィルタなく映像が身近に感じられることも影響しているかもしれないし、自分が歳を取ったということも関係しているかもしれない。
ただこの映画を日本人が作れたか?というと、それは難しいだろうと思う。
外国人から見た視点、そこに日本の感性(たとえば木漏れ日という情緒感覚)が入り混じっている。
野球や相撲、自動販売機、銭湯、下町の居酒屋など、東京生まれの自分も体験したことのない情景、海外からやってきた外国人が感じる日本を象徴する要素が散りばめられている。
日本人が作ったら、なかなかこうした映像にはならないだろう。
それはソフィア・コッポラの「LOST IN TRANSRATION」の映像を時折思い出させる。
下町に住みながら、渋谷のトイレを清掃する仕事を担っている一人の清掃員。
この映画では、その人物が今まで生きてきた背景にある喜びと後悔、せつなさ、哀しさ、愛おしさ、様々な感情が織りなす人生を描き出している。
無口な彼はトイレ清掃の仕事は完璧だが、自分から話すことはほとんどない
ストーリーの進行は淡々としている。
トイレ清掃の仕事を、機械のように決められたルーティンでこなし、同じ毎日を過ごす初老の男。
朝は道路を掃く老婆のホウキの音で目を覚まし、缶コーヒーを飲みながら渋谷へ車で向かう。
仕事が終わると帰ってきてすぐ自転車で銭湯に行き、馴染みの近所の店で酒を飲み、100円の古本を読みながら眠りにつく。
男はほとんどしゃべらない。
地味で禁欲的な生活は、まるで修行僧のようだ。
しかし物語が進み、後半になるにつれ、ルーティンの中にも予想外の出来事が少しづつ混ざり合い、男の内面に特別な感情の揺らぎが起きる。
いつのまにか、どこかのトイレ清掃員の単調な日常は、見ている自分の人生に対する感情と重なり合っている部分があることに気づく。
ラストシーンの3分間は本当に素晴らしい。
この3分間を見るためだけに、そこまでの100分の映像が存在しているような映画だ。
最後は共感して泣きそうになった。
ラストシーンの役所広司の演技は圧巻だ。
それがすべてを語っている。
役所広司はこの作品の演技が評価され、日本人で2人目となるカンヌ国際映画祭の男優賞を受賞した。
48年ぶりだそうだ。
家出した姪の女の子が、突然主人公の家にやってきてから徐々に変化が。
カンヌで男優賞を受賞した役所広司と78歳のヴェンダース。
僕は渋谷区に住んでいるので、劇中にたくさん出てきたトイレをよく見るし、利用もしている。
舞台として頻繁に出てくる代々木八幡神社と、その前にある伊東豊雄が設計したキノコの形をしたトイレ(通称キノコトイレ)そして坂茂設計のガラス張りのトイレも時々利用する。
自分にとっては近所にある日常の風景だが、そのトイレを清掃する方たちもこんな生活を送っているのだろうか、そこに揺らぎはあるのだろうかと思ったりしてしまう。
主人公はスカイツリーが見える押上に住んでいるが、日の出前に起床し、毎日車で渋谷まで通っている。
渋谷に着くまで車中で聞くカセットテープの選曲が素晴らしい。
タイトルになっている「PERFECT DAYS」はルー・リードの曲だ。
オープニングに使われているアニマルズの「朝日のあたる家」、それをあがた森魚の演奏で石川さゆりが演じるスナックのママが日本語で歌うシーンもなんとも言えず日本的で良い。
そして、最後のエンディングシーンで車中でかかるニーナ・シモンの「Feeling Good」がたまらない。
映画の中で何度も登場するキノコトイレ
坂茂設計のガラスのトイレは、17のトイレの中で一番好き。
小津安二郎の映画好きとして知られるヴェンダースは、東京物語に出てくる笠智衆の役名と同じ「平山」を役所広司の役名としている。
この映画を見た時に3本の映画を思い出した。
1つはアカデミー賞を受賞した村上春樹原作の日本映画「ドライブマイカー」、もう1本は同じく東京をテーマに描いた前述の「LOST IN TRANSLATION」。
そして3本目が小津安二郎の「東京物語」だ。
「ドライブマイカー」は日本のロードムービー的な要素、外国人が見た東京の情景という点で「LOST IN TRANSLATION」、何も起きない日常の中から登場人物の内面を描く「東京物語」
空気感、映像の美しさ、リアリティ、それらに共通している点がある。
Perfect daysのパンフ。同じ日に家で「東京物語」のDVDを見る。
あとそれ以外にもう1つ、なぜか父親が70年代に描いた漫画「たばこ屋の娘」のことも思い出した。
父親の描く漫画にも何も事件は起こらない。
派手なアクションもない。
そこにあるのは平凡な日常にある人々の感情を淡々と描き出しているだけだ。
日常の生活の中にある美しさ、人間の感情の揺らぎをそこに描き出している。
小津安二郎が好きだった父、その共通性をこの映画からも感じ取った。
小津からの影響が、ヴェンダースと父をどこかで結んでいる。
そんなことが感じ取れたことも個人的にには嬉しかった。
クリエイティブとはそういうものだろう。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2021/03/post-105.html

https://www.amazon.co.jp/%E3%81%9F%E3%81%B0%E3%81%93%E5%B1%8B%E3%81%AE%E5%A8%98-%E6%9D%BE%E6%9C%AC-%E6%AD%A3%E5%BD%A6/dp/4883793001

とにかく見て損はない映画、傑作であることに間違いはない。
多くの人に是非見ていただきたい。

SHARE THIS STORY

Recent Entry

松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
    青山ブックセンター