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教科書ブランディングの身近な体験 1

仕事
Sep 02,2021

以前もこのブログでお伝えしましたが、

去年、初めて教科書の仕事をさせていただきました。

それも、長きに渡って国内で1番高いシェアを持つ歴史ある光村図書の教科書であり、

教育の現場では、「国語の光村」と言われる、その会社を代表する書籍の重要な仕事でした。

新しい教科書を持つ松本家の娘
シェアを計算すると、日本のおよそ200万人の中学生がその教科書を使う計算になります。
コンペで選んでいただいたとはいえ、シェアを落とせない、結果を問われる仕事でした。
数字的なこともそうですが、原点に立って、子供たちの記憶に残る教科書に、卒業してからも保存しておきたくなる教科書にしたいという想いもありました。
その教科が好きな生徒は、断片的であっても必ず教科書のことを覚えている。
走れメロスに出てきた挿絵だとか、檸檬のページに出てきた梶井基次郎のモノクロの顔写真とか、僕もうっすら覚えています。
自分は決して積極的に国語が好きだったわけではないけれど、苦手意識を持っている子供であってもその教科の授業に抵抗なく入っていけて、先入観なしにその教科に興味を持って欲しい、好きにならなくても収録されている1作品だけ、1シーンだけでも記憶に残る教科書にできればなぁと、自分の遠い昔の記憶を辿って考えていました。
教科書におけるデザインの役割って何だろう?と考えた時に、見やすく、UIやアクセシビリティが優れていて、ユニバーサルデザインにもきちんと配慮ができていることはもちろんですが、それ以外にも、生徒の記憶に残る教科書、文学作品の行間にあるような、情緒的な価値を訴求するものでありたい、そんなことも同時に考えていました。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2021/02/20013.html
もう何十年も教科書というものに触れていなかったので、まず知ることから始めてみたんですが、現在の教科書は、僕が中学生の時とは全く異なっていることに驚きました。
教科書が全ページ4色カラーであることにまず驚き(自分たちの時はスミ1色)、息抜きの要素や飽きさせない工夫があることに、自分が知っている「教科書」という概念自体が違っていることを感じました。
編集部の方たちから繰り返し言われましたが、教科書だからと言って、硬く考える必要はないのかも、というのが着手した時の最初の驚きでしたね。
1年生の表紙をまず開くと、、、、、
朝霧の中、谷川俊太郎「朝のリレー」の詩から始まります。
もう1ページめくると、ゆっくりと朝日が昇る連続写真。 中学の学びがここから始まるという、教科書の最初の見せ場です。
次のページは目次、そこから本編へつながります。
国語の教科書は、およそ1年をかけて、3学年で約1,300ページをデザインしてきました。
この仕事に限らず、PCに向かってデザインしていると、そして座って提案書を書いているだけだと、完成して世の中にリリースした際の実感はあまり湧きません。
それは仕事の規模の大小に関わらず、メジャーマイナーを問わず、作ったものがどれだけの人の目に触れているのか、影響力も感じにくいのです。
利用する人が1人であっても、200万人であっても、制作プロセスと手間は同じで、どちらも等価でコツコツと作っているという実感が残るだけです。
特にデジタルの仕事はそれが顕著ですね。
個人のお店のページを作っていても、年間150億の売上がある伊勢丹のサイトを作っていた時と同じで、対象となる人のことを考えて作る姿勢は共通しており、作る上での違いはあまり感じません。
編集部の方から昨年より数字が数%伸びた、選択した中学校が前回より増えたなどの感想を教えていただけたのはとても嬉しく、励みになりましたが、日本の6割以上の中学生が使っていることを知っても、その現場を見たわけでも、生徒たちに直接感想を聞いたわけでもなく、実感はあまりありませんでした。
僕たちが意図した、1作品でも1シーンだけでも記憶に残る教科書にしたいという目的は実現されたのだろうか?
数字には表れない、その点についてはわかりませんでした。
ページをめくるごとに、朝日は昇り、やがて日が暮れます
夕方、そして夜へと1冊の中で時間が経過するコンセプト。
そんな中で、今回は1つだけ確かな実感があったことをお話します。
とても個人的なことなのですが、娘が中学に入学して初めて手にした教科書が、偶然自分たちが手掛けた光村の教科書だったということ。
中学生としての新生活のスタートと、初めて手掛けた書籍のデビューが偶然重なったということが、個人的にはとても感慨深く。
学校から帰ってきた彼女が、今日の国語の授業で学んだことを話しながら「星の花が降るころに」が大好きになったというエピソードを語ってくれたことは、僕の人生で忘れられない体験になりました。
僕たちが作る前に目標として掲げていたこと、作品1つでも1ページでも記憶に残る教科書になればいいというコンセプトが伝わった、それが本当に嬉しかった。
この仕事をしていて良かったなぁと感じた瞬間でした。
極めて個人的なエピソードですが、仕事を通して貴重な体験をさせていただけたことに、そして私たちを選んでいただいたことに心から感謝しなければなりません。
作っている最中に私たちが目指していたこと、それに対する回答をリアルなユーザーの1人から直接聞くことができた。
200万分の1の感想だけれど、とても嬉しい体験でした。
彼女が好きな作品だという「星の花が降るころに」
自分の記憶の片隅にある教科書のイメージから、今の教科書は大きく変化していたこと。
それを調査しながら、何度も「光村らしさ」とは何か?ということを考える機会がありました。
「国語の光村」と呼ばれることは、業界で長い期間、高いシェアを誇っているからという側面もあるでしょう。
ではなぜ高いシェアなのか?それを編集部の方たちにヒアリングしながら言語化したり、その上で他社と比較して差異の要素をあげることがどうしても必要なステップでした。
それはまさにブランドを作るプロセスであり、DNAを再構築する作業でもあったと思います。
1冊を通して時間の経過を表現し、時を表す言葉が学べる構成に
教科書を作る上で、いくつか解決しなければならない課題がありました。
次回は、そうした課題に対してどのように考えたのか、どのような方針で取り組んでいったのか、制作の裏側についても少しだけ話したいと思います。
今の中学生が学ぶ教科書は、どうあるべきなのか?
皆さんは、我々のように制作を行っている会社の現場について知る機会はあまりないのではないかと思います。
もしかしたら、皆さんの気づきになることもあるかもしれない、そう思って少しだけ制作の内容を紹介したいと思います。

ではまた次回。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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