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教科書ブランディング コンペの提案2

仕事
Sep 16,2021

前回予告しましたが、うちの会社では通常どのような考え方で提案業務を行っているのか?

今回少しだけ紐解いてご紹介したいと思います。

異業種であれば、制作会社についてあまり知らない方も多いでしょう。

皆さんの業務にも活かせる気づきがあればと思って書いていたら1回だけでは入りきらなかったので、2回に分けてお伝えしますね。

第1回は、コンペでの提案内容について解説します。

これがコンペでプレゼンした実際の提案書です
前回の記事はこちら
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2021/09/-1.html

うちの会社は、営業活動をしていないので、いつも知らない企業からの突然の問い合わせから業務がスタートします。
これは毎回伝えている通りです。
光村図書出版さんから問い合わせいただいた際、その名前は知っていたし、教科書を作っている会社というのも知っていました。
しかし、本当に申し訳ない話なのですが、それまで教科書というものに関してほとんど触れたことがなく、なぜうちの会社に教科書の会社から問い合わせが??というのが正直な感想でした。
宣伝会議などで、毎月200ページの雑誌のデザインを年間で長きに渡って担当しています。
しかし、教科書というある意味特殊な媒体は初めてで、それまで過去に制作した実績もありませんでした。
ですから、最初は教科書の知見がない我々にできるものだろうか?という気持ちが大きかった。

リニューアル前の目次とリニューアル後の目次の比較
同じ色&カタチのアイコンは煩雑で、逆に検索性を阻害
アイコンの数を減らし、色計画を見直すことで判別しやすい目次に改善
問い合わせいただく際の多くがそうであるように、3社コンペでした。
10年に1度行われる文科省の教育指導要領の大改訂に合わせて、すべての教科書を改訂するタイミングで、中学校の教科書の制作コンペを開きたいとのことでした。
教科書の業界では、10年に1度の大改訂が勝負の年。
特に業界1位のシェアを持つ国語は、光村を代表する教科書であり、追われる立場にあるということ。
他にも、小学校の教科書との連携、特別支援、色覚特性への配慮、使用書体の指定、「光村らしさ」の維持などの要件も合わせて伺いました。
教科書だからと硬く考えず、今らしく、カッコよくして欲しい、ともお聞きしたんですが、最初はこのオーダーに関して、あまりピンと来ませんでした。
できるのだろうか?という不安を持ちながらも、まず教科書という分野を調べるところからスタートです。
以前の見返し(表紙の次ページ)は学年固有の色を訴求する写真。それに続く本扉とのつながりは分断されてしまっている印象です。
改善した見返しと本扉では、テーマの連続性を意識した流れに変更。 見返しは、谷川俊太郎さんの詩と朝の情景写真(ラフ段階)
僕たちが最初に考えたのは教科書におけるデザインの役割です。
デザインは主役である教材を、よりわかりやすく、よい深く理解してもらうための手助けをする役目があり、学習教材より前面に出て主張すべきものではありません。
その意味で編集との密なコミュニケーションがなければ、課題の解決は難しいと思っていました。
文学に触れて親しめること、授業が楽しくなること、保存しておきたくなる教科書を作ることを目指そう。
そのためにデザインができることは何だろう?
最初に考えるべきは、中学生の感情レベルに共感を生む要素は何であるかを考察すること。
共感を呼び起こす課題は3つあると考えました。
・作品への興味
・授業への集中
・想像力の刺激
提案骨子を記述した実際の初回の提案書から
次にそれらを実現するために、デザインで必要なことは何だろう?
1.可読性:Readabillity 読みやすさ・見やすさ
2.検索性:Usabillity  探しやすさ・使いやすさ
3.視覚化:Visualize  キャッチーさ・楽しさ

機能としての読みやすさと、感性としての楽しさの双方を備えた教科書
学んだ後ではなく、学ぶ前から興味を持たせること
デザインの最大の役割は、機能と視覚による興味喚起にあると定義しました。

その役割を実現するために、他社の教科書の細部を徹底的に調査し、また現行の教科書の課題と改善点を細かく洗い出しました。
ここではコンペの初回のプレゼンテーションで提案した、現行版から改善すべきポイントについて、実際にやったことをいくつか挙げてみましょう。
目次の方針を受けてわかりやすく、写真も強いイメージに変更
まず国語の教科書の基本的な構成として、目次と扉、目的ページという3つの関係を見なければなりません。
検索性(探しやすさ:Usabillity)を検証する上で、冒頭の目次以外に、扉も目次の役割を持っており、それらをつなぐ機能として柱(ページの余白に配された章・節・内容の要点などを記した文字列)とノンプル(ページ数の表記)があります。
授業は必ずしも、冒頭から順番に読み進めていくわけではないために、検索性はデザインが解決すべき1つの重要な機能だと思います。
検索性のUIとして目次と扉の機能を見てみましょう。
光村の教科書は、視覚的な美しさでは競合他社の中でもっとも優れていて見やすいですが、目次と扉、柱との連動性を検証すると、作品種別のアイコン、ピクトグラムが16種類もあり、検索性を高めるために作った機能が、逆に情報過多で煩雑な印象になってわかりにくいという側面がありました。
それまで目次と扉には同じ色の類似したアイコンを複数掲載していましたが、検索性の機能を向上させるために、目次と扉へのアイコンの掲載は、検索に必要なもののみに絞り、教材のタイトルに視点が行くよう見やすいページに改編しています。

ここでの説明は割愛しますが、教科書でもっとも多くのページを割いているのが、読むこと=文学作品を掲載したページです。
これらのページでは、作品をしっかり読ませること(読みやすさ:Readabillity)に重点を置き、学習のしやすさ、文字に集中させることを主眼に細部を調整しました。
細かいことですが、使われているアイコンの色、新出漢字や該当語句の説明に関する文字の大きさ、作者略歴の見やすさなど、読みやすさを追求しています。
話す、聞くではアイコンを見直し、右ページに敷いた立ち落としの色ベタで検索性を向上
他社も含めて国語のすべての教科書には、作品と作品の間に、「話すこと、書くこと」という自発的に学習を促すページが設置されています。
「読むこと」=文学作品を掲載したページでは、他社との差異は出しにくいですが、この「話すこと、書くこと」に限っては、各社独自に編集のテーマを打ち出すページなので、出版社ごとのカラーが出ます。
「話すこと、書くこと」のページは話すことがテーマなので、求められるデザインの役割は、興味を持って生徒を参加させること、
そのためには適度な文字量とイメージによる取組みやすさの訴求、独立したコーナーであることを示す検索性の確保が重要だと考えました。(キャッチーさ:Visualize)

光村の国語で、この「話すこと、書くこと(新版では話す、聞く)」に当たるページは、文字量が多く余白が少ないため、詰まり過ぎて魅力に乏しい印象がありました。
生徒たちがこのページを見て、全体の構成を把握し、手順に沿って自主的に学習することはなかなか難しかったのではないだろうか?
参加が目的なら生徒の興味喚起と自主的に進める手順のわかりやすさをデザインによって解決する必要性を感じました。
タイトルの扱い、進行の流れが把握できるUI、上段と下段の関係性の見直し、カラーやイラストの変更、またこのページに辿り着かせる検索性についても改善しています。
これらの改善は編集部との綿密な刷り合わせがなければ実現できるものではありません。
編集側の考えとデザイン側の視点、双方が1つのチームとなって考えることがとても重要です。
リニューアル後は、文章の行間にある想像力を視覚的に表現
教科書の中で息抜きのページとも言える「季節のしおり」
このページを先生が授業で必ず取り上げるかどうかはわかりませんが、感性を育む、想像力を伸ばすことを目的とした重要なページとして、他のページと差別化し、作る側の意図を全面に出してデザインしました。
好奇心の刺激、美しさ、興味喚起、そんなことをコンセプトに考案した、作っている僕たちも好きなページです。
イラストレーターの提案も大きなミッションでした。

教科書に求められるデザインとは何か?
大まかですが、ここまでが初回のコンペの際に提案した内容です。
受注した後、編集部の方たちと一緒に練り上げていくことになりますが、最初に考えたデザインのミッション、考え方の方針に変更はありません。
ただ学習のレベルを落とさずに(情報量をあまり減らさずに)興味喚起を図るというのは、難易度の高い作業であり、次回につながる課題も見えてきたように思います。
そんな編集部の方と一緒に考えていく過程で、常に出てきたのが「光村らしさ」という見えないキーワードでした。
初回の提案では、まだそれほど光村に対する理解が深くないために、らしさに言及した提案は少なく、機能性という点での改善提案が大部分でした。
それでも「季節のしおり」など、端的に情緒価値や想像力引き出す表現を試みて、視覚化したページもあります。
ここまでが初回のコンペでプレゼンした、おおまかな内容です。

次回は受注した後に行った、2回目以降の提案について触れたいと思います。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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