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佐藤卓の仕事に学ぶ、課題発見と解決

クリエーター
Jun 28,2022

もう時間がありません!!

銀座グラフィックギャラリーに急いでください!

6/30まで開催している佐藤卓TSDO展「in LIFE 」の展示は必ず見ておいた方がよい展示。

きっとそこに気づきがありますよ。

何と言っても無料ですから!

3Dプリンターによる立体的なタイポグラフィ
時間がなくて見られない方のために、感じたことを松本のフィルタを通して紹介します。
3年前に六本木の21_21で開かれた「デザインのマル秘展」の続編のような内容。
「デザインのマル秘展」もめっちゃよい展示でしたよね。
個人的にすごく勉強になりました。
https://www.dig.co.jp/blog/danwashitsu/2020/01/post-80.html
1階は実験的な立体作品などのインスタレーション
デザインを完成した作品として展示する展覧会はたくさんありますが、
途上のプロセス、中間生成物を紹介する展示ってほとんど見たことがありません。
そのマル秘部分を見せてくれたのが「デザインのマル秘展」でした。
21_21の館長である佐藤卓は、「デザインのマル秘展」の評判を見て、自分の展示でも同じアプローチをしたってことなんじゃないかと推測します。
展示は3フロアに分かれていて、2階が映像、1階が実験的なアート作品、地下が佐藤卓&TSDOが手掛けたデザインプロダクツ、そして隣のビルではロゴとその手描き案が展示されています。
巨大なキシリトールやシュレッダーによる廃品ワーク
本物の紙パックを敷き詰めた壁と巨大なおいしい牛乳
まず最初に、ちょっと堅い話からさせてもらいますね。
デザインとは何か?ということから話したいと思います。
デザインには2つのフェーズがあります。
1つは問題の本質を掘り下げ、課題を発見すること。
もう1つが、発見した課題の解決のために設計を行い表現すること。
ほとんどの人が、デザインとは表現だと思っていると思いますが、そうではないのです。
表現の前段階で課題を発見し、定義することがデザインに含まれているのです。
現在のようなVUCAの時代(Volatilie=変化する、Uncertain=不確実な、Complex=複雑な、Ambigous=曖昧な)において、デザインの価値は課題発見にあるとされています。
与えられた課題を解決するのではなく、ユーザーも気づいていない課題を発見することに価値がある。
もうマーケティング調査のデータから定義した課題をデザイナーが表現するだけでは、本質的なユーザーのニーズに応えられない時代に変わったということです。
ハーバード大学が発案したデザイン思考の5段階でも、英国デザインコミッティが開発したダブルダイヤモンドのフレームワークでも、国は違えどその点は共通している。
日本でも同じでしょう。
解決すべき問題を見つけ出し、最善の解をもたらす考え方が必要とされる時代になったのです。
あまずはアメリカからデザイン思考の5段階
イギリスからはダブルダイヤモンドの思考プロセス
そんな学術的な硬めのお話を、佐藤卓の展示では、実案件を通してリアルに、そしてわかりやすい言葉によって見る者に気づき与えてくれます。
こんなに学びに直結する展示はそうそうないよと言いたい。
特に地下の展示ではそれをダイレクトに感じることができます。
佐藤卓のことを知らない人のために、ちょっとだけ手掛けたデザインを紹介しましょう。
誰もがきっと知っている商品ばかり。
ティッシュやトイレットペーパーのエリエール、ガムのキシリトール、ペットボトルの生茶、紙パックのおいしい牛乳、他にも21世紀美術館、21_21、S&Bのスパイスボトル、スキンケアのオルビスなどなど、誰でも知っている日用品のデザインをたくさん手掛けている人です。
日常で誰もが使うプロダクトとそれに対するコメントがセットで展示
実は自分は佐藤卓の手掛けたデザインに対して、以前はあまり興味がありませんでした。
そこには個性とか、表現というニュアンスがあまり感じられなかったのでスルーしていた、という理由があったと思います。
その認識を変えたのが「デザインあ」であり、「デザインのマル秘展」でした。
彼の言葉に、デザインの真理があります。
そしてデザイナーであっても、言葉の表現がとても重要だということを再認識させられます。
日常で使う商品をデザインする際にも、スタート地点には必ず課題がある。
その課題はクライアントから与えられるものではなく、自分で発見し、解決していくもの。
地下に展示されているプロダクツに添えられた言葉には、そうした考え方が制作プロセスを通して如実に語られています。
デザインしていく途上の葛藤に改めて共感し、自分もそうでありたい、忘れてはいけない大切なことだと改めて感じました。
課題発見と解決策を対比してみました
仮説からスタートして課題を定義するスキル。
これがとても重要であることを展示は語っていました。
企業と、あるいは企業が作るモノと消費者のニースを確実にマッチングさせる(結ぶ)ためには、まず的確な課題の定義が必要であること。
モノが持つ本質や、制作者としての企業のモノづくりの姿勢への理解がなければ、このエンゲージは実現しないのです。
課題の発見を誤れば、これらのアウトプットには結びついていなかったでしょう。
デザインは消費をあおることではなく、的確なメッセージを相手に届け、選ばれることであると思います。
それを実現するために、名前が知られた人であっても、課題の発見のプロセスにはみんなと同じ葛藤がある。
消費とデザインの関係に無自覚でいられないことについても考えさせられました。
20年前に作られたキシリトールはデザイン思考が生まれるもっと前
話はちょっと変わりますが、
先日家電の量販店でデジタルカメラを見ていた時に、1冊のカタログに目が留まりました。
それはSIGMAというカメラメーカーが作っているカタログでした。
なぜ目に留まったのか?
キャノンやニコンなどと明らかに異なるカタログのデザイン、そこに強いブランディング、個性を感じたからです。
僕はそのカタログを家に持って帰りたい衝動に駆られて、事実その日に持って帰りました。
後日、カタログのデザインを含めSIGMAのブランディングを手掛けているのが、佐藤卓だということをこの展覧会を見て知りました。
カタログを家に持って帰りたいという感覚は、カメラ本体が欲しいという衝動につながると思います。
カタログを見て、そのキャラクターの強さを感じたのはほんの3秒です。
3秒で持って帰りたいと思わせるビジュアルのチカラ。
デザインが消費を牽引するチカラを持っているのです。
見えないニーズを引き出していることは、課題を解決しようとする力が働いているからです。
消費のインサイトを探ること、それはまさに課題ニーズを発見することにほかなりません。
そのメカニズムに自分の興味は尽きないのでした。
展覧会と同時に発売された新刊も買いました
ということで、佐藤卓の仕事、展示に行けない人も機会があれば是非調べてみてください。
最後にご本人の言葉を紹介しておきましょう。
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誰にも感性があるとして、
プロのデザイナーが何をするかというと、
無意識の感覚に気づいて何かのカタチに
置き換えていくことですよね。
そこは職業的に鍛えなきゃいけない部分です。
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この言葉は自分たちが仕事で求められることを、明確にしているように思います。
学ぶことは続けなければいけません。

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松本知彦 Tomohiko Matsumoto

東京新宿生まれ。
漫画家の父親を持ち、幼い頃より絵だけは抜群に上手かったが、
働く母の姿を見て葛藤し、美術を捨てて一般の道に進むことを決意。
しかし高校で出逢った美術の先生に熱心に説得され、再び芸術の道に。
その後、美術大学を卒業するも一般の上場企業に就職。
10年勤務ののち、またしてもクリエイティブを目指して退社独立、現在に至る。

  • 趣味:考えること
  • 特技:ドラム(最近叩いていない)
  • 好きなもの:ドリトス、ドリフターズ、
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